【RKRN】白い夜 (ページ23)

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飽きることはなかった。それ以前に甲斐丸は、きちんと髪結いとして経験を積んできた者に髪を触られるのが、随分と久々な気がしていて。その感覚が、どうも奇妙であるのにぴったりと落ち着くのが不思議だったのだ。
座らされたタカ丸の部屋の鏡台。その鏡越しに、甲斐丸はタカ丸の手元を穴が開くほど見つめていた。

「……髪結いが珍しい？」

その視線に気がついたタカ丸は、少し恥ずかしそうな表情で甲斐丸に尋ねた。二人の視線が、鏡を通してかち合う。大きなどんぐり眼が、どうしてか妖しく映っているようにタカ丸は感じた。
いいや、とAは否定してから、更に続ける。

「少し、懐かしいような気がするだけだ」

・

「し、白谷先輩、その髪どうされたんですか」

廊下を歩く甲斐丸は、こういった質問はこれで何度目だろうとつい考えた。

あの後十二分に満足したらしいタカ丸に解放された甲斐丸が部屋から出て空を見つめれば、既に暮六つ時で。そのために、食堂へと向かい始めたのだが、すれ違う忍たまたち全員に尽く同じ反応をされる。

「ああ、斉藤にしてもらったのだ」
「わあ、すごく似合ってます！」
「お綺麗です！」
「ふむ、わたしは男なのだがな……」

まるで女子の髪のように器用に編まれ、髪帯をあしらわれ、更にはおまけと称されて遊ばされた前髪は、甲斐丸の端正な顔立ちに相まって小袖を着れば町娘として当たり前に通用してしまうような風貌をつくり出していた。
甲斐丸は僅かに不本意そうに、一年ろ組の後輩である孫次郎と、同じく保健委員の鶴町伏木蔵に返事をした。

「あっ、す、すみません！」
「そうですよね……！」
「ああいや、ありがとう。お前達の言いたいことは伝わっているから大丈夫だ」

斉藤はあれでも腕のたつ髪結いだということだな、と甲斐丸少し見当違いなことを思い、勝手に納得していた。

「平太と怪士丸はどうしたのだ」
「あ、これから呼びに行くところなんです」
「二人ともそろそろ委員会が終わると思うので……」
「そうか」

甲斐丸は顎に手を添えて、何処か考えた様子をみせたものの、短く返答をして二人に目線を合わせた。
そうして、ぽん、と二人の頭を順番に優しく撫ぜる。

「それじゃあ、早く迎えに行ってやらねばな」

伏木蔵と孫次郎は、いつも真っ青な顔に少しだけ朱を差して、照れたように笑って頷いた。

「気をつけるんだよ」

穏やかな声に、はあい！と二人は返事をして歩き出したのだった。