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「以上が五つのことだ。 全員よくやった。 そしてあとはそれ以降の文だけだな」
褒められたは組は、答えたものもそうでない者も各自嬉しそうにニコニコと笑った。
「故に曰く、彼れを知りて己れを知れば、百戦して殆うからず。 この意味が分かる人」
しいん、と教室が静まる。 まあ、兵法は十歳が理解するものとしては十二分に難しい。 甲斐丸は息を吸うと、静謐な声色で解説をした。
「敵情も身方の事情も知っていれば、百回戦っても危険がない。 ということだ」
ほお〜、とは組から声があがる。 これもまた黒板に書き記すと、甲斐丸は次に進んだ。
「彼れを知らずして己れを知れば、一勝一負す。 これは？」
再び教室は静寂に包まれる。
その様相に、おそるおそるといった具合で再び庄左ヱ門が控えめに手を挙げた。 他に挙手する者がいないと判断をして、庄左ヱ門、と甲斐丸はそちらへ視線をやった。 はい、と返事をして、庄左ヱ門は語り始める。
「敵情を知らないで身方の事情を知っていれば、勝ったり負けたりする。 という意味だと思います」
「大変よくできました」
庄左ヱ門は謙遜気味な様子で頬を緩めた。
カッカッと黒板とチョークの接する音が教室に響く。 次で最後だな、と甲斐丸は本を見もしないで一言一句違えずに最後の一文を読み上げた。
「最後だ。 彼れを知らず己れを知らざれば、戦う毎に必ず殆うし。 分かった人」
甲斐丸が言い切ると同時に、はい！ と意外な方向から手があがる。 お、と甲斐丸は内心驚きながら視線をずらし、名前を呼ぶ。
「金吾」
は、はい。 と呼ばれた金吾は少々吃りながら返事をした。
「て、敵も身方も知らなければ、戦うのは非常に危険だ、という意味、ですか……？」
「なんで疑問形なの？」
「合っている。 大変よくできました」
段々と自信なさげに尻すぼみになっていった言葉に、三治郎がかかっと笑った。 不安げに引きつった笑みを浮かべる金吾に、甲斐丸は安心させるように言うと、最後の項目としてそれを板書した。
すごいじゃん金吾！ どうして分かったの？ と詰め寄られている金吾は、頭をかきながら、前に戸部先生が…… と説明していた。
( なるほど、それならば納得だ )
甲斐丸は金吾の話に得心を得ながら、全員が写し終えたのを確かめると、はい、と左手に持っていた本を閉じた。
「では、補習はこれで終了だ」
「起立、礼！ ありがとうございました」
「ありがとうございました！」
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作者名：星月夜 | 作成日時：2019年2月3日 19時
