＊ ページ18
「−−彼れを知らず己れを知らざれば」
「彼れを知らず己れを知らざれば」
「戦う毎に必ず殆うし」
「戦う毎に必ず殆うし」
「はいよくできました」
最後の文章を全員で繰り返せば、甲斐丸は比較的柔らかな声色でそう言った。
「この文章で孫子は、勝つためには五つのことがあると言っているわけだ。 さて、その五つとは何か、もう一度文章をよく見、先程までの事も鑑みて答えて欲しい。 挙手制だ」
「はい」
「庄左ヱ門」
甲斐丸は黒板に、一、二、三、四、五、と右から横並びに書き記すと、言い終えてすぐさま手を挙げた庄左ヱ門を視線でさした。
本の内容を確認するように一度視線で追いかけながら、庄左ヱ門はなんの危なげもなくさらりと一つ目を口にした。
「戦うべきと戦うべからざるを知る者は勝つ」
「つまり？」
「戦って良いときと、戦ってはいけないときとを弁えている者は勝利する、という意味です」
「大変よくできました」
ぱちぱち、と周りから拍手が起こる。 さっすが庄ちゃん！ 庄左ヱ門すごーい！ と、既に庄左ヱ門は学級委員長として皆に認められている様子だ。
甲斐丸は一つ目を黒板に書き終えると、「あと四つだ、他に誰かいないか」と声をあげた。
「はい」
「伊助」
安定の同室組だ。 甲斐丸は伊助に言葉を促した。
「
「大変よくできました」
甲斐丸の褒め言葉に、伊助は恥ずかしそうに照れ笑いをしながら、ありがとうございます、と呟いた。 伊助へも称賛の声が多数飛び交う。
「大福と……？」
「小銭ぃ〜！？」
そんな中、福富しんべヱと摂津のきり丸の瞳がギラギラと輝いた。 周りが苦笑するような視線を二人に集めると、同席の猪名寺乱太郎が「大軍と小勢だよ、二人とも」と呆れ返ったように解説していた。
甲斐丸は、しようがないな、と僅かに眉根から力を抜いていた。
( 先輩楽しそうだなあ )
庄左ヱ門はにこにこと笑う。
「はい！」
「団蔵」
「え、団蔵大丈夫？」
「大丈夫大丈夫！」
次に会計委員である加藤団蔵が挙手をした。 同室である虎若が心配そうな視線を送るが、団蔵はにっと笑う。
「えぇっと、上下の、……」
「欲」
「欲を、……」
「同じう」
「同じう、する……」
「者は」
「者は、勝つ！」
「はい、ということは？」
所々突っかかったところをAがサポートしながら、団蔵は無事読み上げ終えた。
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作者名：星月夜 | 作成日時：2019年2月3日 19時
