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時は流れ、夏至に差し掛かる頃。
あれからすぐに一年は組には皆本金吾が加わり、四年は組には斉藤タカ丸が、四年ろ組には浜守一郎が加入し、先に転入してきていた山村喜三太も含めると四人も転校生が入ったことになり、忍術学園はますます賑わってきていた。
そんな中、甲斐丸は一年は組のトラブルメーカーっぷりに少々手を焼いていた。 最初こそ、今年の一年は元気のいいのが多いな、程度だったのだが、こうも毎日のようにトラブルの渦中にいられると、もうそろそろ確信を持ってしまっていた。
その上、この学園の長である大川平次渦正という男はかなりいい加減な男であり、は組と張り合う程にトラブルを運ぶ人物なので、先生方や生徒すらももっぱら頼ることを諦めてしまっている。
そうして今日、甲斐丸はどうしてか一年は組の面々の前に教科書とチョークを持って立つ羽目になっていた。
「−−今日は先生方が試験の資料作成で忙しく、その上土井先生は出張でいらっしゃらないので、わたしが先日の学園長先生の思いつきで遅れた分の授業を取り返すべく、特別講師をさせてもらう」
黒板に 「孫子の兵法 諜攻第三」と書き終えると、甲斐丸は目の前の一年は組全員にそう告げた。
は組のよいこ達は声を揃えて、はあい! と元気のいい返事をした。
そうなのだ。 実習の見守り役やお使い、トラブルの尻拭いその他諸々では飽き足らず、甲斐丸はとうとうは組の特別講師として勉強を教えることになってしまったのだ。
便宜上は授業だが、結果的には補習なのにやけに機嫌がいいな、と甲斐丸は不思議に思う。
「は組は授業が遅れているので、この項は他クラスは勉強済みだ。 そのため今度の試験範囲に含まれている。 今から頑張ろう」
「えぇ〜っ、大変そう……」
「テストはもうすぐですよお?」
甲斐丸の言葉に、は組の面々は打って変わって不安げな面持ちをした。 そして、しんベヱと喜三太が弱音を吐くと、大丈夫だろう、と甲斐丸は返した。
「優しくて思いやりのあるおまえ達には、この項目で孫子の言いたいことがすぐに理解出来るはずだ」
左手で開いた和装本の内容にさっと目を通しながら、甲斐丸は言った。 そうしてから、カ、と黒板にチョークを滑らせる。
は組の面々はその背中にきらきらとした眼差しを送っていた。
( む、無自覚なやさしさ……! )
( 白谷先輩って、無感情そうだけど案外優しいのかも……! )
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作者名:星月夜 | 作成日時:2019年2月3日 19時