【RKRN】白い夜 (ページ14)

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喜八郎と話をしてからすぐ、甲斐丸は自室へと戻ると、なんともタイミングよく伊作が甲斐丸のことを訪ねてきていたのだった。
救急箱を持って大分部屋の前で待っていたらしい伊作は、「どこ行ってたの、もう」と待ちくたびれたように笑った。

「全く、無理しちゃって」
「無理はしていない」

伊作は甲斐丸の手のひらを消毒しながらそう言った。けれど、甲斐丸がそれを認めないことはわかり切ったことであったので、はいはい、と困ったように返事を返す。

( いっつもなんだから )

伊作はすっかり慣れきった手つきで、甲斐丸の手のひらのぱっくりと縦に切れた傷跡を覆い隠していく。くるりくるりと、清潔な包帯を巻き付けて。

「流石万年不運委員」
「保健委員って言ってくれない？」
「不運(ほけん)委員」
「字面の問題残ってるよ」

しくしくと伊作は目を瞑って眉尻を下げながら、もうどっちでもいいや、と思った。
そういえば、と甲斐丸は話題を変えた。

「伊作、今日はだれの差し金だ」

その問いかけに、伊作はふふっと微笑んだ。
怪我をした時、甲斐丸は大半の場合朝と夜に大人しく治療を受けている。ご存知の通り朝は大体目が覚めると伊作が隣にいるが、夜は自分から訪ねることが常だった。
だから、この場に伊作がいるということは大抵誰かの密告によるものなのだ。
文次郎か、と最初は思ったが、それにしてはどうしてか穏やかすぎた。

「よく見知った顔ばかりだよ」
「……」

伊作の言葉に、甲斐丸は瞳を伏せた。

( 教室、長屋、裏裏山、用具倉庫、図書室裏…… )

今日の行動を思い返していた。そうしてから、合点がいったように、ふう、と仕方がないと言いたげな息を吐く。それに、伊作は面白そうに笑んでみせる。

「あまりお人好しも過ぎないことだね」
「何の話だ」

ぴ、と伊作は包帯の一番端を解けないよう固定しながら言った。

「お前は一応女の子なんだからね、っていう話だよ」

どこか、どうしようもない諦観を瞳の最奥に引きずったまま、伊作ははぐらかすように呟いた。
Aは、自分の手のひらを少し見つめてから、す、と伊作に視線をずらして返した。

「いやそんな話はしていない」
「もうほんっと察しが悪いのも大概にしてくれる？」

頭大丈夫か、と言いたげに首を横にふるふると振ったAに、伊作は少し腹立たしげに返したのだった。