【RKRN】白い夜 (ページ2)

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「雪に何か思い入れがあるんですか」

これに似たような問いかけは、もうこれで八回目だった。
うらさみしい冬風に少々身を強ばらせながら、わたしは視線をゆっくりと上げた。栗毛色のふんわりとした毛質の男が、いつのも寝巻きの上に丹前を着込んで、訝しげな視線をわたしに向けていた。

「別に」

わたしはそう一言答えると、再び視線を外へやる。
その年初めての雪だった。ただ、粉雪というよりは水分量が多く、落ちた後の地面は嫌にぬかるんでいる。所謂べた雪だった。
わたしは、屋根の外へと手を伸ばした。雪が手のひらや腕に落ちて、すぐに溶けていく。冷たかった。虚しくなるほど、何も残らなかった。

「風邪をひいてしまうよ」

そして今度は視線もくれずに、未だ厳めしい態度で、その場に立ち塞がったままでいる後輩に忠告をした。
息が白む。凍えた空気が忍び装束の隙間からわたしの肌を容赦なく刺していた。でもわたしには、それがどうしようもなく必要なのだ。けれどお前は違う。寒いだろうに。
「早く布団に戻った方がいい」わたしは、付け足すように再び告げた。

「……人の気も知らないで、あなたって人は」

怒気を含ませたような声で、ようやく言葉が発された。それを聞くとわたしは、ああ、と思った。その声色は他の数人とは決して同じものではないのに、また総じて同じ感情が混ざっているのを感じたからだった。
どうして、揃いも揃ってそんなに泣きそうな雰囲気を言葉の節々に残すのだろう。
さっぱり分からなった。分かりやしなかった。

「わたしなら平気だ。気にしなくていい」

だってわたしは、ほんとうに平気だったのだ。そんなに気を遣われる方が、随分と苦しい。放っておいてくれていいのだ。わたしのことは、わたしのような者のことは。

「そんなこと出来るわけないじゃないですか」

至極冷静につとめた声が、わたしの耳に入り込む。ふう、と小さく息を吐いた。と同時に、そいつはわたしの隣に無造作に腰を下ろした。
どういうつもりだ、と視線を動かせば、後輩は生意気そうに鼻で笑った。

「先輩がここにいるなら、私もいますよ。先輩が帰る時、私も帰ります」

とんだ生意気な発言に、わたしは困り果てて肩を竦めた。そうしてとうとう、わかった、と重い腰を上げたのだった。付き合わせる訳にはいかなかった。
そうして満足げにわたしを見上げた顔が、他の数人とも重なった。

わたしは、この夜のことをどうしてかよく覚えている。