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三、電閃の如く突然に ページ8

ともあれ、ひとまず何事もなく、あの方を交えた夏の日々は穏やかに始まりました。いえ、あの方の村でのいちばんのお役目は魔物や盗賊の退治でしたから、そういう意味では穏やかというのは少し間違いかもしれません。ですけれど、とにかくお上様の御意志である「永遠」を体現するような、あの方との暮らしはそういう、変わり映えはなくとも平穏で満ち足りた生活だったのでございます。それに、あの方が村にやってきてからは魔物や盗賊の話はめっきり減って、村の周りはそれまでよりずっと安全になったように思えました。それまでは村唯一の神の目の持ち主だった爺さまが一人で請け負っていた悪者退治の仕事が、あの方のおかげで分担できるようになったというのもあったのでしょう。とても平和な日々だったのです。


 生活を共にすれば、一日の中でそれなりの時間を共にすることになります。あの方には食事を作るのを手伝っていただくこともありましたし、畑の世話を手伝っていただくこともありました。なんだかんだでいつの間にかあの方に懐いていた弟の相手をしていただくこともありました。そんな中で私がいっとう好きだったのは、夕餉の後、あの方が刀の手入れをする時間です。当然ですが、毎日というわけではございませんし、何か喋るというわけでもございません。刀を振るう用事があった日の夕餉の片付けがすっかり終わった頃、あの方は座敷に座って黙々と刀を見つめます。目釘を抜いて、柄、切羽、鍔、ハバキを外して、刀を拭って、打粉をかけて、また拭って、油を塗って。あの方がなんの淀みもなく行うそういう動作を、私はいつもあの方の斜向かいに座ってこっそり窺っておりました。息が掛からぬよう、懐紙を口に咥えて真剣な顔をするあの方があんまりにも格好良いものですから、邪魔してはいけないと思いながらもつい、刀の手入れをするあの方をじ、と見つめてしまうのです。座敷に座る言い訳の針仕事なんて、いつも手が止まってしまっていました。それでもあの方は私の視線に気がつくことはなくて、それはそれでもどかしいような。身勝手ですが、そういう気持ちがしておりました。刀よりも私を見てくださればいいのに、なんて。もちろん口に出したことはございません。それでも、あんな真っ直ぐな瞳をこの身に向けてくれたのならどんなにしあわせかしらと、そう、思っておりました。

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作者名:鳴草 | 作成日時:2022年5月6日 1時

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