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episode 12 ページ13

『兄さん』

わたしがそう呼ぶのは、あの人だけ。わたしの師である、太宰治。
『太宰さんは(やつがれ)の師だ』
そう云う芥川に、わたしは手を差し伸べる。
『そうなの?じゃあ仲良くしよう!わたしの名前は飯島櫻子!』

あの時、何故か兄さんは笑ってたっけ。
何もかもが懐かしい、大切な思い出。
でも、所詮は思い出。
いつまでも浸っていていい程、わたしは悲劇のヒロインじゃない。

例えば、そうだな、過去を変えられるんだとしたら。もう一つの世界を、生きていけるんだとしたら。
わたしは、姉様や兄さんと、笑って暮らせる世界を生きていきたい。
誘拐なんて最初からなくて、兄さんは最初から善人で、姉様とも仲が良くて。そう云う世界が欲しかった。

_______叶わなかったけどね。

最小限の荷物だけ持って、横浜で一番大きな建物を後にする。
天気は曇り。太陽は顔を隠して、雲が元気よく育っている。
どこに逃げるの?
何をするの?

そんなの判らない。でも、姉様に会わないところに行く。
わたしがどうしてそこまでして姉様に会わないのか。そんなの、わたしにだって判らない。
会っちゃいけない気がするから。会ってしまったら、倖せを壊してしまう気がするから。

「櫻子っ‼」
ねえ、だから、ねえ。
やめてよ。ここで会ってしまったら、わたしの今までの我慢が無駄になってしまうじゃない。
わたしだって、本当は______姉様に甘えたかったんだよ。

姉様。

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作者名:茉里 | 作成日時:2019年7月7日 13時

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