episode 10 ページ11
「待てよ」
櫻子を追いかけようとした私を、康成が肩に手を置いて制する。
振り払おうとするが、康成だって義弟とは云えど男だ。力はそれなりに強くて、簡単には振り払えなかった。
「追いかけるつもりか?やめとけよ、あんな奴追いかけたって」
「駄目なの」
肩に置かれた手を摑む。優しく握ると、義弟の温もりがほんのりと感じられた。
康成。
私の事を、ちゃんと考えてくれる、優しくて自慢の義弟。
でもね、血が繋がっている尊い妹は、私にとっての本当の家族は、櫻子だけなんだ。
ごめんね。
「康成、ありがとう」
微笑んで云うと、康成の肩がビクッと揺れる。少し力を込めて手を握ると、何だか力が貰えるような気がした。
「じゃあ、せめて」
康成の声がして、私は顔を上げる。
「せめて、母さんと父さんには挨拶していけ。血は繋がっていないとは云え、母さん達は義姉ちゃんの事、本当に大切に思ってたんだ」
「もう、何云ってるの?康成ってば」
笑って、康成の肩を強めに叩く。
「挨拶って………私がもう帰らないみたいじゃん。帰るよ。私の家は、お義母さんとお義父さんの所だから」
そう、私の家はお義母さんとお義父さんの所。
でも、妹は櫻子だけ。
「じゃあね、康成。また後で」
手を離すと、温もりの消えた掌が寂しく感じられた。
振り返る事なく、公園を後にする。
そのまま、櫻子を追う、はずだった。
彼奴の______太宰治の姿さえ見えなければ。
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作者名:茉里 | 作成日時:2019年7月7日 13時