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「やだっ、やめて………姉様助けてっ‼」
悲痛な声で叫ぶ妹を、私は見つめる事しかできなかった。
判っていたから。
私が立ち向かっていったって、相手には勝てない事を。
「姉様、姉様ぁ‼」
肩が震える。空は灰色の雲に覆われていて、雪がちらほらと降っていた。
「助けないのかい?」
意地悪な声が尋ねた。
「君の妹だろう?」
判っているくせに、声は私の鼓膜に絡みついて離れない。
妹の悲痛な声も。
耳を塞いで、逃げ出したかった。どうして私達にこんな事が起こるの、どうして妹なの、と、相手の胸ぐらを摑んで問いただしたい衝動だってあった。
でも、どれもやってはいけない事だ。
きっと、私の判断によっては、妹も死んでしまう。
「連れて行ってくれ、と云う事かい?」
嫌だ、嫌だ………何も聞きたくない。
この世から音が消えてしまえばいいと、その時初めてそんな事を思った。
「ね………さ、ま……………」
声が途切れる。
殺されたのかもしれないと、そう思ったら、心臓が縮み上がって、掌が冷たくなっていった。
「妹は貰っていくよ」
さっきとは違う、冷酷な行いに慣れているような声に、初めて顔を上げた。
顔に包帯がぐるぐると巻かれた、男の人。
「駄目………っ」
反抗してみたけれど、妹を連れた人達の足は止まる事はない。
寒さと恐怖で、躰の震えは治らなかった。
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作者名:茉里 | 作成日時:2019年7月7日 13時