超人ちゃんと凡人ちゃん

蜂蜜色の私たち（上） ページ7

「名字、帰らないのか？」
「図書室寄ってくから、じゃーね東堂」
「……奇々怪界、お前熱でもあるんじゃないか？」

そう言って東堂は、私のおでこに手を当てた。
私だってなぁ、期末テストさえなければ図書室にわざわざ行くことなんてないんだぞ！
今回、全教科６０点以上をとらないとお小遣いが減らされてしまうんだ。死活問題だよ！

「失敬だな！ 私だって図書室くらい行くよ！」

適当にあしらって、下駄箱とは反対方向へ足を進める。
私の勉強事情は、東堂には悟られてはいけない。絶対にだ。これは私の防衛本能だ。

「私も行く」
「えっ、やだよ。帰りなよ」
「む、何故だ」
「ほら、東堂は囲碁しなきゃ囲碁！」
「私も丁度本を読みたいと思っていたのだ」

テスト前に読書だと！？ 余裕綽々だな、超人め。
私は隣について歩く彼女をひと睨みしてから、スピードを上げた。

「おい、何故置いていこうとする」
「そんなことないよ、いつもこれくらいだよ」
「何か隠しているな」
「いやいやいやいや」

走りなら当然東堂には敵わない。しかしここは廊下、全速力で走れば違反チケットものだ。
競歩なら勝てる可能性もゼロじゃない。
そうしてなんとか図書室までひとりで到着することができた。今回は意外とあっさりしてたな。

「ふふふ、巻いたか」

図書室の扉を開く。

「遅かったな、名字」
「ひえっ、なんでいるの！？」
「お前バカだろう」
「ぐぬぬ……」

まさか先回りされていたとは……。やけに潔いと思ったらそういうことだったのか。
彼女の前を素通りして、一番端の席を陣取る。ここなら家と違って誘惑も少ないし、多少勉強も捗るだろう。
で、

「なんで隣に座るのさ」
「私もここが良いと思ったのだ」

東堂は詰め碁の本を取り出して読み始めた。それ家でもできるじゃんか！

「どうした、テスト勉強はしないのか？」
「な、何故それを」
「私には読めていた！ さあ勉強を始めるぞ！」

東堂はそう言うと、私の鞄から勝手にノートと教科書を取り出した。
おいこら、人の荷物だぞ。

「まずは数学からだな」
「ひ、ひとりで出来るから！」
「そうか」

まっさらで折り目ひとつないワークブックを開く。とりあえず最初からなら簡単でしょう。

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