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動かぬ体を必死にもがいて、佐野も子供たちのもとへ行こうとしております。
しかし、やはり体はうまく動かず、倒れたまま地面を這いつくばっておりました。
その後ろで、鬼は醜く膨れ上がった大きな腕を振り上げ、こちらに向かって振り下ろします。

与力「て、撤退だ!!!皆のもの!撤退だ!!!」

自分たちがおびき寄せたにもかかわらず、いざ本物の鬼を目にした与力たちは、声を裏返して足早に退陣していきます。
後には動けぬ子供たちと、佐野を残し。
しかし、その巨大な腕が捕らえたのは、逃げ惑う同心たちでありました。
まるで掌で叩き潰された蚊のように、同心たちは体が破裂し、中の血液が辺りに飛び散りました。
そして鬼は、その手についた血をすするように、自らの手を口に持っていったのです。
一方で勇斗はまだ何とか動く腕を使い、必死に這って子供たちのもとへ急ぎます。

佐野「おいお前ら!大丈夫か?!怪我はないか?!」

子供「あ、あ、あ……」

子供たちは、あまりの恐怖でもはや佐野の声すら聞こえておりません。
ただ見開かれた瞳が、まっすぐに血肉を貪る鬼を見つめておりました。

佐野「あんなの見るな!!俺を見ろ!!聞いているのか?!おい!!」

しかし、子供たちの体を揺さぶっても、彼らはすでに恐怖で失禁し、魂を吸われたようにただ鬼を見つめておりました。

子供「こ、怖いよ……怖いよ……勇斗兄ちゃん……」

佐野「大丈夫だ!!俺が何とかしてやる!!だからはやく逃げろ!!!」

子供「う、動けないよ……」

皆恐怖で足がすくんでおるのです。
そしてその後ろで、鬼は木々をなぎ倒しながら、こちらへ近づいてきていました。
動きこそ鈍いですが、その大きな一歩はすでにもうすぐそこまできております。
佐野は腕を使って体を転がし、子供たちとは反対側へ移ると、同心たちが落して行った十手をつかみ、それを鬼めがけて投げつけました。
不幸にも、まだ腰に据えた岩融をふるうほどの力を発揮できないのです。

佐野「鬼め!!こっちだ!!」

どうにか鬼を子供たちから遠ざけなければ。
必死に佐野はもう一つの十手を投げつけます。
けれど十手は鬼の固い皮膚にはじかれて、地面に突き刺さりました。
痛みなど感じてはいないかのように、鬼は十手があたった場所をぼりぼりとかきむしるだけ。
やがて鬼は、足元にある洞穴に視線を移し、覗き込むように姿勢を低く落としました。

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作者名:milkssss | 作成日時:2020年7月13日 21時

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