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  ページ29

生い茂る木々の隙間を縫って駆ける舜太と仁人。
木の枝を飛び移って去っていく太智には到底追いつくことができません。
その距離はどんどんと離され、すでにもうその姿は見えません。

舜太「くそっ!なんて奴だ!」

仁人「あの身のこなし、まるで山猿ですな……」

舜太「あいつ、あの人相書きの盗賊か?!」

仁人「違いますよ……。あの人相書きとは似ても似つかなかったでしょう……」

舜太「でも俺の刀を盗っていったぞ?!」

仁人「それは舜太殿が油断するからでありましょう……」

舜太「む……」

仁人「それにしても、この先は確か……」

二人が向かう先。
外の世界を知らない舜太には、今向かっている先がどこなのか見当もつきませんでしたが、仁人には何やら心当たりがあるようです。
そこは、この中津国の中心。

舜太「何か見えてきた……!あれは……壁?」

二人の眼前に立ちはだかるは半町()はあろうかという巨大な鉄でできた壁。

仁人「あれは、外からの侵入も、内からの脱出も許さない防壁です」

舜太「防壁?」

仁人「もちろん、鬼の侵入を拒むための物。あそこは、この中津国の中心、華の都、明安京にございます」

かつてこの中津国を治め、栄華を極めた明安京。
しかし、今はこの巨大な防壁で四方を囲まれ、閉鎖された都。
鬼すら寄せ付けぬその防壁は、何人たりとも通ることを許さないと言います。
貴族が住まうこの都を鬼から守るために建てられた防壁ですが、内外からの接触を断ったせいで、周りの村々は都への侵入ができなくなり、物を売ることもできなくなり、しだいにこの中津国は活気を失って行ったのです。
この防壁の中も、今はどうなっているのやら。

舜太「あいつ、そんな良いところに住んでるくせして俺の刀を盗んでいきやがったのか!」

仁人「……何かのっぴきならない事情があるやもしれません」

舜太「そんなの知らない!とっとと奪い返すぞ!」

仁人「おやおや、穏やかではございませんな……。ん?舜太殿!上をご覧くだされ!」

指差す先には、この巨大な防壁を蹴って駆け上がる人影。
それはまさしくあの太智と言う青年でありました。
青い小袖を(ひるがえ)し、彼は防壁を軽々飛び越えて、都の中へと姿をくらませたのです。
 


※半町=約50m
 

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作者名:milkssss | 作成日時:2020年7月12日 18時

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