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それは、淡い黄色の小袖袴(こそではかま)を召した若い男性でした。
手に沢山の野草を抱えて、それを戸の近くの台に置くと、彼は流しのあたりでえらく長い間、丹念に手を洗うと、小走りで舜太の元へと駆け寄りました。

「ご加減はいかがですか?傷口はまだ痛むでしょう?これをお飲みになりなさい」

そう言って、布団の脇に置いてあった湯飲みを差し出して、これを飲むように促すのです。
舜太には、いったい彼が何者なのか、募る不信感しかありません。

「そんなに怖がらなくとも大丈夫です。私はこう見えて医者なのです。さ、これをお飲みになってください。多少は傷の痛みが引きましょう」

舜太「………」

お爺さんとお婆さん以外の人間と関わったことのなかった舜太にとって、この人間が信頼に値するのか、判断しかねていましたが、傷が痛むのも事実、仕方なく彼の出した湯飲みを受け取ることにしました。

舜太「う゛っ、苦っ……」

「あはは。良薬は口に苦し。じきに痛みが和らぎます。さぁ、もうしばらくは安静にしておいてください」

舜太「……俺を、助けてくれたのか……?」

この見知らぬ誰かは、もしかしたら、この小屋で自分を介抱してくれたのかもしれない。
そう思い、舜太は彼に尋ねます。

「ええ。でも驚きましたよ。薬草を取りに山へ入ると、あなたが血まみれで倒れていたのですから。
正直あの傷ではもう助からぬかと思っていたのですが、不思議なことにあなたの傷の治りは他の人に比べ、早いようです」

先ほど持って帰ってきた野草を石鉢ですりつぶしながら、彼はその時を思い返す様に天を仰ぎながら舜太にそう語りました。
確かに、昔から舜太の傷の治りは早いものでした。
お爺さんと山へ柴刈りに行ったとき、誤って斧で手を切ってしまった時も、慌てるお爺さんを後目に、舜太の傷は常人ならば傷が塞がるまで何日もかかるところ、ものの数時間で完治したのです。

舜太「そうか……」

「ところで、あなたお名前は?私は仁人と申します。僭越(せんえつ)ながら、この村の医者をしております故、何か体の不調を感じましたら何なりと」

仁人と名乗った彼は、そう言いながら野草をすりつぶし、優しい微笑みを向けてくれました。
まるで、お爺さんやお婆さんがしてくれたような、そんな優しい微笑みでした。
 

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作者名:milkssss | 作成日時:2020年7月12日 18時

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