息が笑いに変わる時 ページ5
『よ、よし。それじゃあ気を取り直してご飯食べに行こう、そうしよう。それが良い』
先程の失態を繕うように早口で言い終え、どこまで張り切っているんだと問いたくなるような速度で歩を進める。
失敗を恥だと思うな〜なんて言葉を心の中で唱えてみても、持論が邪魔をして上手く納得できない。私にとって失敗は、軽く捉えられるものではないのだ。
ゲームみたいにやり直しが出来る訳でも無し、だからこそ貪欲なくらい頑張らなければならない。
この私に“頑張る”なんて言葉は似合っちゃくれないんだけどね、なんて皮肉めいた思考が頭を掠めた。
少し後ろから聞こえる足音はもちろん彼女のものだ、隣に出てこないのは私の足跡を辿っているからだろうか?
はたまた先輩の顔でも立ててくれてんのか、だとしたら……認めたくはないが助かった。僅かに気を抜いていたのもあって、私の表情は言う事を聞かない。
ほのかに朱が入っているだろう頬に手を当てて擦ってみる。これで彼が来るまでには消えていると良いのだけど、なんて。
生気を失くしたように温度の低い自分の手は、確かな熱を溜め込んでいた頬を着実に冷やしていった。
けれども後ろから響く楽しげな足音に邪魔され、消えかかっていたはずの羞恥がせり上がってくる。
冷たかったはずの手すら温度が上がってきてしまえば、最早なす術など見付からず__降参せざるを得ないか、と思っては振り向いてみた。
きょとん、と音がしそうな位に首をかしげる彼女。赤縁の奥で丸くなった瞳は、内心で思っているであろう事をよく表していた。
『……恥ずかしっ…』
口の中に反響させるようにしたはずの言葉は、ジャーナリストの端くれたる彼女の耳に届いてしまったようで。
「……Aさん。もしかしてさっきからずっと恥ずかしがってたんじゃ__」
『言わないで、トドメ刺されたら本当にダイイングメッセージ書いちゃうよ私』
「えぇっ!? 駄目です駄目ですっ、書かないで下さい!」
そんな冗談にすら律儀に反応してくれる姿を眺めていると、前からただ吐かれるだけの息だったものは確かに変わっていく。
機械じみた表情でも演技でもない、純粋な笑い声が私の口から響いていく。
大嫌いな私の全てのうちの一つ、声。これまで沢山の人を騙して、これからも騙し続けていくそれが。
__少しだけ、好ましく思えた気がした。
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アインツバル - 橋本アリィちゃんさん» ですが既に手放しかけていた粗末な文へ、こうして温かい言葉を掛けて下さった事 心から感謝しています。末筆ですが改めて、読んで頂きありがとうございました! (2022年2月26日 14時) (レス) id: 21e5f63abe (このIDを非表示/違反報告)
アインツバル - 橋本アリィちゃんさん» コメント有り難う御座います、反応が大変遅くなってしまい申し訳ございません。前の作品については仰る通りで、私自身の手で消去致しました。応援して頂いたところ本当に心苦しいのですが、恐らく今後これを更新する事はありません。 (2022年2月26日 14時) (レス) id: 21e5f63abe (このIDを非表示/違反報告)
橋本アリィちゃん(プロフ) - 初コメ失礼します!とても楽しく読ませて頂きました!今後とも応援しています!頑張って下さい!(*´ω`*)(((後、前の作品が全て消えてるんですが、気のせいですかね?(´・ω・`)))) (2021年11月6日 10時) (レス) id: 1849d0f1e6 (このIDを非表示/違反報告)
アインツバル - 月花さん» はい3コメおめでとありがと大好き…!!()そうそう弱気な吉良ヒ、(幼少期だもの←) コメントはいつだって超絶嬉しいよ…!!本当にありがとう、これからも宜しく! (2020年8月2日 22時) (レス) id: cbb6f528ce (このIDを非表示/違反報告)
月花(プロフ) - 今更感あるけど….シリーズ五本目!おめでとう〜!三コメをいただいていきま〜す(←) ヒロトの名前が出てきたとき、「えっヒロ…吉良ヒ…?…!?」でした、あるちゃんの小説大好きです、更新…無理なく頑張って下さい!!(以上、謎タイミングコメント野郎でした!←) (2020年7月30日 21時) (レス) id: 689878ceda (このIDを非表示/違反報告)
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