其の愛は、秘めてこそ美しい、三 ページ3
レザー張りのソファに身を預けた太宰は、森の女中からだされた紅茶に口をつけ「美味しい」と呟いた。
ーーーとても空気が重い。まるで鉛の箱に押し込められて海の底に沈んでいくような気がする。
帰りたくなる衝動を両手を握ることで抑える。
「首領。要件は何でしょうか」
「まあまあ、そう急がないで。取り敢えず御茶でもしようじゃないか」
己の立場が有利であることを知っている者の、余裕のある声だ。鼻歌交じりにカップに口をつける森に、太宰は機械的に微笑む。そして森から視線を逸らさぬまま、一気に紅茶を飲み干してしまった。強烈な熱さが舌にのこるが、表情に出さない。
「飲みましたよ。それで、要件は?」
森のわざとらしいため息がだだっ広い首領室に溶ける。
「それがねぇ、涼宮ちゃんが討伐した和佐組があるだろう?其処と同じ系列の鳥羽組の損害が、大きかったみたいでね。どうも、復讐を企てているらしい」
頭の中が真っ白になり、それが少しずつ元に戻るのに随分長い時間がかかった。太宰は続いて、頭の中で整理しようとした。机のひきだしを整理するように。然しうまく整理はつかなかった。混乱がさらなる混乱を呼んだだけだった。
「……は?それは、つまり……」
なんとか絞り出したのは、疑問。
「つまりもなにもないさ。唯、太宰君の秘書が危機に陥っている事実を伝えたまでだ」
真実を簡潔に述べられ、森が太宰に何を求めているかがわかった。同時に、そうに仕向けた森を恨む。
「……鳥羽組の討伐許可をください」
「部下思いだねぇ。いいよ、鳥羽組は最近うちの子会社を荒らしているから。丁度いい」
悪魔の微笑みを浮かべる森に、太宰はすでに興味を失っている。頭を支配するのは涼宮が安心できる場所を確保する為の、討伐。今頃涼宮が襲われているかもしれないと考えるだけで恐ろしい。
ソファから立ち上がり、首領を見おろす形で太宰は言い放った。
「此れからAに危害が及ぶようなことを仕組んだら、貴方だろうとぶっ殺す」
ぞっとするほど低い、押しこもった声。森は部屋の温度が二度下がった気がした。
「……へぇ。それは怖い」
それでも尚、組織の首領は考えを改める気は全くなかった。
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作者名:萩原りお | 作成日時:2017年4月29日 20時