Only Love Part 35

ちょっと訊きたいこと ページ28

夜９時少し前に桐生邸に戻った僕は、すぐに2階の奥にある旦那様の寝室に向かった。

Aさんはまだ帰宅していなかったので、ご夫婦に帰宅の報告と休暇の御礼を言って退出した。

休暇は今日1日なので、あと数時間は仕事をしなくてもいいのかもしれなかった。

でも、そういうわけにはいかない。

僕はダイニングに行って、食器戸棚を開けた。

麗子奥様が嫁入り道具に持ってきた銀食器がある。

嫁入り道具と言っても新しく買った物ではなく、奥様のご両親が愛用していたという一揃いだった。

僕は白手袋をはめ、食器をとり出して、磨き始めた。

執事の仕事のひとつに、食器類の管理とメンテというのがある。

こうして日本にいる時には、それをやっておきたかったのだ。

夢中になって仕事をしていると、Aさんが帰宅されてダイニングに入ってきた。

「あら、如月。早かったのね」

「本日は特別な休暇をありがとうございました。存分に羽根を伸ばして参りました」

「ほんとに？じゃあ、なんで銀磨きなんてしてるの」

「いえ、これは私の仕事のひとつでして」

「まだ休暇の時間は終わってないでしょ」

Aさんは車のキーを手にしている。

ジーンズにセーターというラフな姿。

久しぶりに運転されたんだなと気が付いた。

「たしかにあと２時間半ほどございますが… それとも、これを中止して、お嬢様のお相手をしたほうがよろしいでしょうか？」

「そりゃ、そうだわ。じゃあ、私の部屋にハーブティーを持ってきてくれる？」

「かしこまりました」

僕はカモミールティーを淹れて、Aさんの部屋に運んでいく。

「あのね、ちょっと如月に訊きたいことがあるの…」

「はい、なんなりと」

僕はドアのそばに立って、美味しそうにお茶を飲むAさんの姿を見ていた。

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