スピーカー ページ6
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〈Tadayoshi side〉
大「はぁ、はぁ…、
くそ、電話出ぇへん…っ！」
耳に当てていたスピーカーも意味を失くし、
そのまま片手に持ったスマホを下ろす。
もう、走ることだけに集中して。
ヤスがくれた情報を頼りに向かうのは、
この文化祭の間ずっと、
いや、俺が出会った時からずっと、
気になり続けたアイツのいる場所。
あの教室で、二人がどんな気持ちでいようと。
二人がどんな表情で、
どんな雰囲気を共有していようと。
…俺は決めた。
走ってきた勢いをそのままに、
開きっぱなしのドアから中へ入る。
大「A！！」
…でも、
大「…あ、れ、いない…」
そこにおったのは、…錦戸だけ。
少し驚きを浮かべた表情で、こちらを見る。
そして、やけに冷静そうに口を開いた。
錦「…アイツなら、もうおらんで」
大「なんで…」
ふと片手に握りしめたままだったスマホを確認すると、
『通話中のため応答することができません』
という表示。
その文字を見て、段々と現状を把握していく。
息切れに気付き、苦しくなってくる。
錦戸の後ろの窓から見えていたはずの花火は
すっかり消えて、
夜空には濁った煙だけが漂っていた。
錦「誰かから電話がかかってきて、
その瞬間、Aの様子がおかしなって…
…それで、行ってもうた」
落ち着きを払ったような声に、苛立ちを覚える。
大「だれ…誰なん！それ…！」
もう俺が必死になってるだとか
仮にもコイツがAの彼氏だとか
そんなんどうでもよくなってて、
気付けば錦戸に掴みかかろうとしている俺がいた。
しかし、それに触発されたのか、
錦戸は俺の手を振り払う。
錦「知らんわ…知っててもお前に知る権利ないやろ」
大「お前には
止める権利も追いかける権利もあったはずやろ！」
錦「…」
一瞬だけじっと睨んで、顔をそらす。
大「何でAのこと手放すねん…！」
錦「お前には！！
…一度も手に入れたことすらないお前にだけは、
言われたない」
勝ち目のない言葉で返されて、
それ以上言葉を出せなかった。
しかしそれは向こうも同じなようで、
俺たちはそれぞれにAのことを思うけど、
何故だか探し出す気になれずにいた。
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作者名：黒葡萄
| 作成日時：2020年2月7日 16時
