コオリ ページ7
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走って、走って、
進めば進むほど、暗くなっていって。
誰もいない、
誰も来ないであろう場所まで来た時には、
花火も終わっていて、
生徒が騒いでる声さえも聞こえなくなっていて。
けれどその間も、ずっと変わらないボリュームで
着信音は絶えることなく響き続けていた。
暗闇の中で一人、スマホの着信画面が眩しくて、
ようやく応答する。
「…もしもし？」
走ったせいだけじゃない、
何かのせいで激しく動く心臓を抑えながら
やっと絞りだした声は震えていただろうか。
ああ、どうしよう、こんな…
「あ、A？」
電話越しの声に、こんなに動揺してしまうなんて。
こんな自分を隠したくて、
いつものテンションになるように
どうにかコントロールする。
「…急に、なに」
「急ちゃうやろ？」
少しだけ鼻にかかったような、どこか脱力感のある、
わずかに色気を含んだこの、この喋り方。
たった一言、耳に伝わった振動だけで…
何もかも全ての感覚がよみがえっていくかのように。
「昼間、すれ違ってたの気付いてたよな…？」
「…」
気付いてた。
文化祭最終日だった今日、一般公開の時間。
亮ちゃんと歩いていた時。
何度も見上げたことのある、スラッとした身長の…
…けど、知らないふりをした。
「まぁ、電話出てくれて良かったわ」
「どうしたん？突然…」
しばらくの沈黙。
だけど、ドキドキして止まない沈黙。
「…A、ほんまに、ごめんな」
「えっ…」
「話したいことあるから、今からでも会われへん？」
「…それは、」
迷う言葉は、すぐに遮られる。
「A、俺のこと呼んで？」
…嘘だ。
嘘に決まってる。
あんなに凍らせておいた氷が、
こんなにも呆気なく溶けてしまうなんて、
「…裕君、」
「ん、懐かし」
「…どこ、行けばええの」
…絶対、嘘だ。
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作者名：黒葡萄
| 作成日時：2020年2月7日 16時
