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その日もテレビにはMCが映っていて、
誰もが知るような音楽番組で堂々と新曲を披露していた。
新譜もカッコいいな…。
メジャーデビュー後からも変わらず…いや、
更に進化したような柏ちゃんの歌いっぷりに、
また圧倒されていく。
…だけど、その裏でまた、
純粋に聴いていたい気持ちを邪魔する感情。
悔しい、羨ましい、どうして私たちは、って。
大会の結果で明確な差を感じてしまってから消えない、
あの黒く渦を巻いた彼らへの思い。
その度に、できない自分も、
そんな醜い感情を抱いていること自体も、
全部嫌になって、目を背けて逃げ出したくなった。
しかし、その黒い感情にも、徐々に変化が生じていた。
それまでがドロドロと渦巻いていたとしたら、
そこからは、段々と動きが鈍くなり、固まっていくような。
そのまま永久に、重たく留まってしまいそうな。
『エイトは女ボーカルが去年から明らかにスランプ』
『いつ元に戻るの？それとももうこのまま？』
『こうなる前は結構凄かった』
『一回目のニバスタで見た時、
次は決勝行くと思ったんだけどなぁ』
『あの時MCも一緒だったよね。こんなに差が開くとは』
『ニバスタ今年は厳しいと思う』
…見つけてしまったのは、調べ過ぎた自分のせい。
とあるツイートが出てきたかと思ったら、
ニバスタの予選でよく聞くようなバンドが話題になっている
掲示板のリンクが貼られていて。
そこで時々、私たちの名前も話に上がっていたようだった。
酷い言葉、というよりかは、正直に淡々と語られていて。
良くも悪くも大袈裟じゃなくて、それが逆に
脳裏に焼き付いていくように次々と印象付けられていった。
『MCデビュー曲も神だったけど新譜も良いな』
『ボーカルカッコよすぎる。何回聞いても痺れる』
『そりゃ優勝するよね、あれは才能』
だから、MCを見ていてもそんなコメントが頭によぎって。
自分とは対照的に評価の高いMCに対して、
所詮最初からレベルが違ったんだ、
自分にはあんな風にできる訳ないんだ…って。
嫉妬することすらもやめて、
ただ無気力に諦めの感情を抱くようになった。
何かを感じるのも面倒になり、心の奥底に未だ残る
「自分だって」なんてどうにもならない野心にも、
見て見ぬふりして蓋をしてしまっていた。
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作者名：黒葡萄
| 作成日時：2022年5月5日 8時
