苦しさ ページ39
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五月も折り返し、後半に入った頃。
休養期間も、一か月あると思っていたはずが
もう半分も過ぎたという事実に驚いていた。
それだけあっという間な感覚だった。
気持ちはだいぶ落ち着いているし、
心身ともに調子が悪くなることも少なくなっていた。
休養して、分かりやすく安定してきている感じだ。
…でも、
錦「ほんなら次のライブでさ…」
安「うん、そうやね…」
「…」
バンド活動に参加していない今、
相も変わらず懸命に取り組んでいる先輩達の姿を見て、
自分でも意外な感情が顔を出し始めていた。
…離脱した当初は、それこそ、もうバンドについて
何も考えなくて良くなったことが楽に思えていたのに。
むしろ今は…彼らに加われない、音楽に関われないことが、
少し、苦しくて。
その苦しさが、日に日に少しずつ強くなっていく。
その度にハッとさせられる。
あんなに離れたかったのに、今度は近付きたい？
触れたい？
…やっぱり私の気持ちは、
あそこに置いたままにしてきたんじゃないかと思いたくなる。
もう何を見ても聞いても、
私に戻るべきだと伝えているようにすら感じる。
それは、私自身が今そうしたいからだってことも、
もう気付いてる。
…休養を終えたらバンドに復帰することを考え始めていた。
それまで全く想像してなかった訳じゃないけど、
ほんのちょっとずつ、現実的に。
先輩達と一緒に、また歌いたい。
そんな単純な気持ち一つ確かめるのにも、
沢山の迷いがあって、何周もして、時間もかかって。
その上でようやく、
何よりも一番だってことを再確認してる途中だ。
…だけど決め切れずに無視できない不安も残ってる。
何よりも一番、やりたいことが、
何よりも今、自信を持てない。
どんなに気持ちがあっても、
実際にどこまでやれるのかはまた別の話。
現実的に自分が再び歌うことを考え出すと、
またそうやって、振り出しに戻されるような気分になった。
休養するに至ったのも、そもそも気持ちより先に
客観的な事実や実力が原因としてある訳で。
それを考えないまま決めることはできない。
それに、
安「…ん？Aちゃんどーしたん？笑」
「…いえ、何でも、」
先輩達がこのままで上手くいくなら、
いくら譲れない気持ちだとしても、揺れてしまう。
…だからまだ、自分の思いをそのまま口に出すのは怖い。
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作者名：黒葡萄
| 作成日時：2022年5月5日 8時
