フロート (橙) ページ32
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信五君の言葉を聞いてから、
私も自分が本当にやりたいことを考えていた。
就活の方は少しずつだけど前進し始めていて、
客観的に見れば順調にも思えてきた。
それでも素直に喜べない部分があるのは、やっぱり…。
…でも、
再びバンドに対する気持ちが熱を持ち始めていることには、
今はまだ気付かないフリをしていたかった。
正面から向き合って考えられるほどの強さが
今の自分にあるのか…自信が無いから。
ふと過去を振り返った時に、
これまでバンド以外の選択を考えていなかった自分が
まるで別人のように思えてくる。
他の事なんて特に気にしていなくて、
きちんと考えてもいなかった…
その向こう見ずな姿勢に、今では少し羨ましさすら抱く。
そんなに昔じゃないはずなのに、
あの時の自分は勢いも勇気もあったのにな、って。
…その分、今の自分は色んなことを気にして、
何だか劣ってしまったように思えて。
「…はぁ…」
丸「Aちゃん！」
「え？」
曇りで薄暗い午前中から溜息をついてたら、
いつの間にか近付いて来た隆平君に名前を呼ばれた。
何ですかそんなにこにこして…
丸「デートしよ！」
「え、嫌です」
丸「拒否はや！？」
突然訳の分からないことを言われ、反射的に拒否ってしまった。
考え込んでて、つい…とりあえずで塩な反応しちゃった。
眉を八の字にして分かりやすくショックを受けてる隆平君。
「いや…どうしたんですか急に」
丸「お昼食べに誘おうと思ってん…ランチデート…」
「え？それなら普通に言ってくださいよ」
丸「え？行ってくれるん？」
「…まぁ」
丸「やったぁ」
他の人たちはそれぞれ出かけてるみたいだし、
今日はたまたまお家に二人しかいなかったので。
誘われた通りに、ランチデート…？に、繰り出してみる。
だけど外に出ても依然として薄暗いままの空を見ながら、
何となく今日の自分が
いつもよりローテンションであることを自覚した。
丸「最近ずっと曇り続きやねぇ」
「んー、ですね」
丸「…」
これまた何となくした返事が
素っ気ない感じになってしまった私を見て、
隆平君は何故か少し微笑む。
…不機嫌って訳では無いんだけど、
何だか頭は変に落ち着いてしまってるし。
いまいちテンションの上がらない私に、
果たして隆平君のデート相手が務まるのだろうか。
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作者名：黒葡萄
| 作成日時：2022年5月5日 8時
