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村「降っても濡れて帰ったったらええねん」
「何に対する当てつけですか」
巻き舌気味に言う強気な信五君に、
笑いながらも心強さを感じる私。
…先行き不安にならないのかな。
「…信五君って、」
村「ん？」
「…就活してたんですよね」
村「おう」
「でも、内定蹴って、バンドに戻って来ました…よね」
…そうやなぁ、って遠くを眺める信五君。
杏仁豆腐の最後の一口が消えていく。
村「…結局、自分が一番やりたいことを考えたんや」
「…」
村「あの時Aと再会したせいで、
それまでの "やりたい" とは比べ物にならんくらいの
やりたいことに気付いてもうたからな」
また少し風が吹いて、さっきよりも強くなる雨の匂い。
でも、信五君の表情は何一つ変わらなかった。
村「…ていうか、
何かあっこの水道、出しっぱなしになってへん？」
「え？」
…キリッとした目で遠くの方を見据えていると思ったら、
ずっと向こうにある水道を見ていたのか…。
言われてみれば、確かに微かな水の音が聞こえてくる。
一応確認してみるかということで、ベンチから立ち上がり
二人してその水道の方まで見に行ってみると…
水飲み場の噴水式に出てくるタイプの蛇口から、
ちょろちょろと小さく水が溢れ続けていた。
村「ったく…ちゃんと締めなあかんやろ、
って、うわぁっ！！」
「ちょっ！？」
信五君が止めようとしてその蛇口を思いっきり捻ると、
天に向かって勢いよく吹き出す水。
が、重力に従って私達に容赦なく降り注ぐ。
「ぎゃ、逆です！逆！！」
村「えっ！？こうか！？」
水飛沫の中必死に腕を伸ばして、
再び捉えた蛇口を今度こそ締める。
「は…止まった…」
村「…」
「…」
村「…な？」
「何が？」
…でも、もう手遅れで、びしょ濡れになってる私達。
地面も濡れて色を変えてる。
村「…どうせ雨なんか降らんくてもこうなんねん」
「どういうことですか」
村「どんだけ不安になろうが、濡れる時は濡れるっちゅうことや」
「うーん…深いような、深くないような…」
村「深いってことにしといてくれへん？」
ごめんな？って申し訳なさそうな瞳がうるうる輝いて、
私の湿った前髪を優しく避ける。
…だけど今、濡れたことなんか微塵も気にならなくなって
笑ってるのは何故なんだろう。
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作者名：黒葡萄
| 作成日時：2022年5月5日 8時
