素直になる薬

8 K ページ8

遡ること一ケ月前。


俺は宮田と食事に来ていた。
同じロケだったため、集合して約束していた。
俺から誘って、焼き鳥屋。

個室完備の店で、店長とも知り合いだから、顔なじみで信頼できる店を選んだ日だった。
今年はデビューにおける初めて訪れる大きな節目の年。
デビューが遅かったから、俺は正直いい歳したおっさんだ。
こんなおっさんの、恋愛を拗らせた話なんて誰も聞きたくないことは分かっているが、宮田はぐいぐい聞いてくれる。



オタクである宮田は割と視野も心も広い。
自分の好きなものを臆することなく『好きだ』と語ることができる。
以前にゲスト出演させていただいた時、彼にとっての聖地に一緒に訪問した時、改めて衝撃を受けた。


本番前。撮影の合間。ゲストさんや進行のアナウンサーさんは、スタッフさんと話していたから、好奇心からふらふらと店内を見て回っていた。
そこで、ちらっと『BL』というコーナーがあるのが、目に入った。
多分、潜在的に気になったのだろう。無意識に俺はそのラベルを凝視してしまった。


きょろきょろ周りを見渡して、居ないことを確認して、そのラベルに手を伸ばしたはずのなに、翳りゆくラベルに先程までは居なかったはずの宮田がいつの間にか隣にいたことに気づいた。



「北やん、もう始まるみたいだよ」


宮田は、その時はそれ以上、何も言わなかった。
俺も、周りを考慮して何の弁明もしなかった。


そんな事があった後、俺は、きっと心のどこかで弁明したかったんだと思う。
宮田と二人っきりの呑みの場で、俺はほろりと白状してしまった。


『男が対象な訳じゃない。藤ヶ谷を愛している』と。


宮田は、驚いたふりをしていた。
でも、ふりだって分かった。宮田は優しい。そして、嘘をつくのが下手だ。
体の動作は驚いてみせていたが、表情が全く驚いていなかった。
たまに見せる気を遣う時の表情をしていた。


宮田は、あの時、本当は察していたのかもしれない。
でも、俺に気遣って見て見ぬふりをしてくれていたのだと思った。
配慮、モラルの問題。
宮田の人柄に改めて感謝した夜だった。


その日から月日を経て、俺は宮田に本音と弱音を吐くようになっていた。
自分の歳のことも。どこかでアイツへの想いに区切りをつけたいと思っていた。


それが、今年だと思った。グループの節目。自分自身も年男で区切りの年。
「自分の誕生日をもって、この恋心は捨てる」と宮田に宣言した。

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