素直になる薬

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北山が番組で罰ゲームを受けた。
冗談でも宮を褒める北山の横顔を見て、胸が痛んだ。


素直になる薬なんて、非科学的なもんがなくて本当に良かった。
自白剤として薬 物が用いられた過去も歴史にはあるようだが、日本ではもちろん使用されていない。中 毒症状になったり廃人状態になっり、死に至ることもあるそうだ。


今回のテーマをいただいた時、考えた。
素直になる薬があったら、俺はきっと北山に会えなくなるだろう。

顔を合わせれば、きっと漏らしてしまう。


「君が好きだ」と。


拗らせまくっている俺の恋心は、北山と必要最低限しか関わらないことで何とか隠せている。
それは、人間には「嘘がつける」という特性があるからだ。
本音と建前という言葉があるように、人の感情と態度との違いを示すことができるのだ。
我ながら器用だと思う。
いや、不器用なのか。
本当に隠し通せる自信があるのなら、別に関わって他のメンバーに接するように接することだって出来るはずだ。


自信がないから、距離を置く。
カメラの前では特に。
きっと俺ら以上に俺らのことを詳しいファンの方々にこの恋心が暴かれてしまうから。
無意識にふと漏れた笑みや緩んだ口元までは隠せない。


雑誌のインタビューや番組で、北山は俺のことを「かっこいい」と言ってくれたことはあるけど、それは本音ではないだろう。建前だ。仕事だから。


仕事上で発せられたコメントに自惚れて喜ぶなんてヘマはしない。
もういい大人だ。


公私の区別ぐらいはついている。


「今回のテーマも難しかったよね」


そんな他愛もない感想を言い合いながら、渉と楽屋まで戻る。
渉に気づかれないよう、本当に少しだけ振り向いて、北山を探す。
北山はスタッフさんと話した後、宮とこっちへと歩き始めた。
楽屋に戻ってくるのだろう。
宮は玉と居ることも多いが、同じぐらい北山と居ることも多い。
人を羨んだりしない方だが、こうした瞬間は羨ましくなる。


『素直になる薬』が手元に届いたら、俺はそれを飲むのだろうか。
いや、飲んだりしないだろう。


隠してきた恋心を知られるのが、怖いから。
北山に拒まれるのが怖いから。

拒みがちな俺が言えたことじゃないけど。
特別だから、他のメンバーのようには接することが、できないのだから。



「藤ヶ谷ってマジでかっこいいよね。すげえ綺麗な顔してる」


だから、北山が楽屋で俺の顔を見て発した言葉は、まさに青天の霹靂であった。

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