うちのマネージャーは、仕事ができる。【後編】

57 F ページ7

北山は義務感で、俺と一線越えようとしている。
そこには気持ちがない。あるのは、責任感だけ。


そう思うと、余計きちんと謝らなきゃと思うんだけど、考えれば考えるほど、どう言えばいいか悩んでしまう。
だって、こんなチャンスは二度はない。
卑怯者だと割り切って、俺は北山を貰ってもいいのだろうか……
アイツ、男との経験はないよなあ……
いや、そうであって欲しい。



ぼんやりしながら天井を見上げた時だった。


「お先にご無礼しました」


遠くで微かに聞こえていたドライヤーの音が止んでいることに、北山の声で気付かされた。



「あ、ああ、」


柄にもなく緊張してしまい、声が上ずる。
ガラ、と扉を開けて北山が入ってきていた。


北山は男らしい引き締まった体をしていて、なんとなく目のやり場に困る…っつか、割りと大胆なんだな。


寝間着を羽織ってはいるが、胸板から腹にかけて全開だった。



「こういう時って、全部釦を留めるのが正解だっけ？」
「…………」
「でも、どうせ外すんだし釦留めない方が効率いいよな」


あっけらかんと。
身も蓋もない。
……釦を外すのは、男のロマンだし。
北山は男のくせに分かってない。



「つか、俺の体見ても……いける？萎えたんなら今だぞ。膨らみだってねえし」


余裕そうに言ってるくせに。
声が震えてるし。
表情筋が強ばった笑顔を向けられても、そんなの分かるよ。全然誤魔化せてない。



「萎えるわけないじゃん。」
「……マジ？」
「綺麗だよ。北山」



このまま、お前の横のテーブルに押し倒してしまいたいぐらいにね。



ぴきん、とまるで表情筋が固まったように、北山は硬直した。その横を、通り過ぎる。




ふわりと北山の甘いシャンプーが香った。



＊


風呂を上がり、髪を乾かす。
北山が準備してくれていたのは、綿のガウンだった。
畳まれたそれが、洗面所の洗濯機の上に置かれていた。
バスタオルで全身を拭いた後、
コーヒーブラウンの暖かそうなガウンに身を包む。


もう、反応してしまってる。
緊張で反応しないこともあるとよく聞くが、
俺は緊張しているが、もう万全を期していた。
むしろ、恥ずかしい。



本当の思いを伝えぬまま、奪ってしまってもいいのか。
でも、思いを伝えたら、奪うことすらできず、むしろ、離れていくだろう。
事態は後退するのでは、という言い訳地味た誘惑が次から次へと良心を否定してくる。

58 F→←56 F

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す