うちのマネージャーは、仕事ができる。【後編】

51 K ページ1

助手席に居るのは、大人気スタアだ。
仮に俺がマネージャーで、世の中に身バレしないような存在でも、都内のターミナルである路肩でスタアに唇を奪われた所をパパラッチされれば、弁明の余地もない。



こっちを見てほしいから、とか意味不明な理由で奪われた俺はどうすればいいのか。
平気なフリをしているが、ほんとは心臓が飛び跳ねて、息もしずらい。


窒息死してしまいそうだ。
顔を逸らして、スイッチを押して左にある窓を少し開けた。


虎落笛が車内を一層、凍らせる。
藤ヶ谷は仲良くなれば、見た目と違ってよく喋る。
なのに、見た目通り、黙り込くから、気まづくなる。


藤ヶ谷にとって、何も喋らなくても、気まづくないのが俺の存在意義だった。
藤ヶ谷は人見知りで、この世界で「話さないと」というプレッシャーを割と抱えている。


だから、俺の前でぐらいは「何も考えなくてもいい」と思って欲しかった。
例えるなら、空気のような。



家族以外で、一番付き合いが長いのは俺のはずだから。



本当は何でキスなんてしたのかとか、問い詰めたい。
でもそれでこいつを追い詰めたいわけじゃない。



彼女が居ないと言っていた藤ヶ谷。
もしそれが、真実なら……



「……欲求不満なのか？」



藤ヶ谷だってもう大人だ。
盛がついた若者ではない。


でもやっぱり彼女だって欲しいのかもしれないし、そうした女の子は必要なのかもしれない。
……それはマネージャーとして、俺がどうにかしてやらないといけない案件なのかもしれない。


今までひた隠しにして、切羽詰まったのかも。
俺って結構、女子顔だったりするし。
背も低いし。撫で肩だから、ちょっと体型も座ってれば女子寄りなのかもしれない。



「……は？」
「そりゃ溜まるよな。……お前が望むなら、場を設けるけど」


絶対トップシークレット案件だが、金を積めば、そうした場は準備できる。
後腐れがないように、互いの連絡先は交換NG。
互いがビジネスとして。利害関係の一致だ。



情報が漏れた際は、一生懸けても償えないよう賠償金が待っている。きちんと契約として法で守られている信頼の厚いものだった。



藤ヶ谷は大スタアなのに活用したことがない。
初めてのこと。
戸惑うように、瞳が揺れていた。



……何故だろう。
提案しておいて



「…………お願いしようかな」



乗った藤ヶ谷に、失望してしまっている自分がいた。
軽蔑なのか、何なのか……なぜ俺はこんなにも、呼吸が苦しいんだろう。

52 T→

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す