うちのマネージャーは、仕事ができる。【後編】

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「何で？藤ヶ谷さんは？」


後部座席から、ポツリと疑問に思ったのだろうそのまんまの言葉が聞こえてきた。


俺も驚いてる。
北山が、俺を降ろさなかったことに。
……もしかしたら、玉を降ろして俺は例の密会に送り込まれるのだろうか。


冬なのにシートヒーターで温まった背中は、汗をかき始める。
北山がいいって、本気で言ったけど……
北山からしたら冗談で躱したと思ったのかもしれない。
俺が気を使って。なんかの茶目っ気だと誤解を招いたのかもしれない。



「ちょっと今夜は藤ヶ谷と話したいことがあるから。」
「……それは俺も参加しちゃダメですか。仕事のことなら、勉強させてください！」


……出た！
必殺勉強させてください作戦！
北山が頼られると断れない性格をもう見抜いてる、玉は完全に。



まだ状況がよく飲み込めていない俺は、無言でその場をやり過ごす。



「ごめんたま。プライベートのことなんだ」


プライベート？！
その言葉を出されては、さすがの玉も介入できないだろう。
……つーか、もしかして俺、説教決定？
それとも何かそうした女の子の紹介システムとか勧められんの？



「…………ずるいです、ミツさん」
「たま？」
「プライベートって壁を作られたらそれ以上介入できないじゃないですか、」



明らかに落胆した声が聞こえてきた。
暗くて顔までは見えないが。
狭い車内の中に、響いていたエンジン音が止んだ。




これ以上、介入なんてしないでほしい。



「……距離を置くって言ってたのに、」


ボソリと、何か玉は呟いたが、言葉尻が弱くなり聞き取れなかった。
サッと俺の前を何かが通った。
それは北山の腕だった。俯く玉の頭を二度ポンポンと叩いたあと、くしゃくしゃくしゃと髪を撫でた。



「心配すんな。明日朝起こしに行くから。」


そんな甘い言葉を添えて……
短めな玉の髪が乱れる。
レッスンを終えた玉の髪は、汗をたくさんかいたのか、暗闇でもしなやかに見えた。



北山……



「……ミツさんを信じて俺アラーム設定しませんからね！」


拗ねたような発言と浮かない顔。
それだけで好意が分かる。
まるで、大人じゃない。


外見の好青年な雰囲気とは正反対に支離滅裂な性格が垣間見えた気がする。



つか、考え方が俺と同じ過ぎて正直気色悪い。
自分では当たり前のようなルーティンも、客観的に聞くと、「アラームぐらい設定しろよ」と思う。
いや、まさに俺も同じ行動をしてんだけど。

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