流星群の奇跡【後編】

72 F ページ23

千ちゃんの頬と北山の唇が近い。
息もかかる距離。
その光景にごくりと唾を飲み込んだ。


こんな狭い隙間から、ちょうど見えてしまうそれに握ったまま取っ手を離せない。
覗きなんてタチが悪いと分かってても
体がピタリと固まって動けない。



音を立ててはいけない、そんな風に思えてしまうほど、綺麗な画を作り出していた。



ちょっと待って。
北山は俺の恋人だ、よな……？


まるで、目の前の二人は愛し合ってるかのように見える。目を伏せた千ちゃんを愛しそうに見下ろす北山。
千ちゃんが寄り掛かってるからか、いやに北山が大きく男らしく見えた。


その光景の傍観者となっていた俺の耳に信じられない言葉が入ってくる。



「昨日すぐ寝ちゃうんだもん。寂しかったじゃん」



え昨日、すぐ寝た……？
千ちゃんも北山とメールをしてたのだろうか。
先走って焦りを感じながら、その後に続くどちらかの言葉を息を止めて持つ。



「よく言うよ。千賀の足、朝起きたら俺の腹の上にあったんだけど。苦しくて起きたし」



取っ手を握る手はだんだんと汗ばんで、滑っていく。



「俺より先に寝た報復だね」
「いつも思うけどもうちょっと寝相よくなんないの」



いつもって、何？
寝相とか朝起きたらとか、
そんな身に覚えのない言葉が部屋の中の二者間で繰り広げられている。


なにその会話。
二人はセ フレ？恋人？
ただの友達？


北山は俺と付き合ってくれたんじゃなかったっけ？
確かにOKを貰った。毎日メールだってしてる。


昨晩俺は逢いに行った。
でも北山とは逢えなかった。
その理由は今朝メールで着ていた。
昨晩は寝ちゃった、んじゃなかったっけ？
その寝ちゃった隣には、千ちゃんが居たってこと？


逢いたかった、ってメールをくれたのは嘘だったのか？


二人はそういう関係だったってこと？
頻繁に泊まってるってこと？


だから、いつもテレビ電話はかわされていた…？
逢いたいって予定を聞いても断られてた？
全てが腑に落ちてしまう。


なら、何で俺の告白を受けた？
俺も好きだなんて、なんで言うんだよ…！



北山の毛先が頬に触れた千ちゃんは、愛しそうに頬をぽりぽりと掻いた。




その細めた目は、言葉がなくても「愛しい」と書いてある。そんな表情を千ちゃんにさせてるのは、誰でもない……



北山だ。

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