流星群の奇跡【後編】

65 F ページ16

「北山とは嘘みたいに順調だよ。毎日メールするし、北山が俺を好きだと言ってくれる、信じられない夢のような日々でさ」


朝起きて、スマホを見る。
毎朝水を飲む習慣より、歯を磨くことより、顔を洗うことより、まずそれが一番先にする習慣になった。
寝落ちするまで、メールのやり取りをすることが増えた。


おはよう、から始まり…
今何してる？と話題を広げ、
こんな仕事をした、と報告しあって。



自然と前より小さなところで生活にもメリハリを与えてくれるようになった。
規則正しい生活を心掛けるようになった。



「でも、中々会えなくて。何度か予定を聞いて誘ってみるけど、アイツ忙しくてさ」
「まあ、北山さんは交友関係広い、つーか深いもんね」
「まあね。でも、少しは優先して欲しいって思っちゃうわけ。それって間違ってるかな…」


言えないでいること。
せっかく恋人同士になれた。
だから、無理矢理にでも二人で会う時間を確保して欲しいって願うのも事実だった。
仕事仲間としての付き合いは2桁を越え長いとは言え、まだ付き合ってホヤホヤなわけだし。



好きだ、と伝える方法が
顔を見て出来ないというのは、ちょっと物足りない。



「そんなに会えてないの？だとしたら、そう思うのは間違ってはないんじゃないかな。」



渉は、一瞬天井へと視線を上げてその後、閉じて首を何度か上下させた。



「本当に会えてない。ね、聞きたいことがある」
「なに？改まって」


今日改めて抱いた懸念を、投げかけようと背筋を伸ばした。
その俺の様子に、渉は首をほんの少し傾けた。



「今日の北山、何か違和感なかった？」
「違和感…？」


北山なのに、北山だと思えないこのなんとも不思議な感覚を問い掛けた。
付き合ったら人が変わるとは言うが、まるで別人のように見えてしまった。
そういう次元じゃない、違和感。
でも、だからと言って嫌いになるとか、そんな突出した話ではないけど。



「いや、何か……こう、わかんねーけど、ここ最近の北山は何か違うっていうか、今日の収録とちょっと違ったじゃん」


渉には共感してほしかった。
この僅かに生じる俺の中の、もやもやを。
「たしかに。何かあったのかなあ」と。
渉にそれとなく、探りを入れてほしいとちょっと思ってたりする。
変わろうと思ったキッカケが何かあったのか、とか。
世間話を装って、渉ならなんなく訊けそうだし。



縋るように重ねて尋ねれば
願いに反して、渉は首を傾げたままだった。

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