流星群の奇跡【後編】

61 F ページ12

その少しムチっとした二の腕が綿越しに顎にあたる。顔が熱くなる。
動けず固まっていると、もっと強く絞められ北山の柔らかい髪が頬へと擦れた。


「き、北山？！」


想定外のハグに慌てて背後を振り返ると、くりくりな瞳が細められていた。
弧を描き、目尻に何本か皺ができる。


この皺がくっきり見える距離にタジタジになるが、北山は全く平気そうで…



「んふふ！藤ヶ谷にやっと逢えて嬉しい〜」


うりうり、と額をドリルのように押し付けてくる。
可愛いけど…俺の知ってる北山とは思えなくて、若干混乱する。


それに、この場にはニカがいる。
こうして俺らが戯れるのを不審に思うだろう。
例え藤北推しだと宣言していても。



「ちょ、北山！ニカが……」



ニカには聞こえない声の大きさで北山の形のいい耳の傍で注意すれば、北山は丸っこい鼻をふんっと鳴らした。



「大丈夫！ニカには話したから！どうせ藤ヶ谷もよこーさんに話すんでしょ？」
「……え、ニカに話し、た？」
「安心して！ニカにしか言わないから！」



話した、とは。
確かに俺は渉に話すし
北山が相談相手にニカを選んだって、咎める資格はない。



じゃあニカは……
知ってい、る？



俺と北山が付き合ってること、を…？



ということは昨日パンフレットをくれた時も知っていたということなのか？


ならなんで……


言ってくれなかったんだよ



ニカが座っていた椅子に振り返る。
北山の腕が首に回ったまま、ニカを視界に捉えると



「…………」


ニカは、俺と北山がこうしていても事とせず、手元の台本を確認していた。



おかしい。普段のニカならニヤニヤと囃し立てそうなのに。わざとこっちを見ないようにしているように見える。



だって、台本を掴む親指が微かに震えてるように見えるから。
気のせいかもしれない、でも。
メンバーの前で、こうして戯れ付いてくる北山にゾッと鳥肌が立った。


可愛いはずなのに…



「北山って、こんな歯に衣着せない奴だったっけ？」



無意識にそう口にしてしまっていた。
思った以上に声が低くて自分でも驚く。



「え、なに？はにきぬきせ…？」


眉をきゅっと寄せて、首を傾げる北山。
うーん、とパーツが真ん中に集まっていく。
よく本を読む北山が、この言葉を知らないなんてちょっと考えられない。



「いや、ごめん…」



この違和感はいったいなんなのか……
ここ最近感じる違和感
メールでは感じないのに。


その腕からそっと離れた。

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