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藤ヶ谷の前のテーブルの上にコースターとグラスを置いた。いつもそこに藤ヶ谷は座ってるんだよ。そう言いたくなったけど、言ってしまったら、気待ちが溢れてしまいそうでぐっと堪えた。
藤ヶ谷はグラスを手に取り、喉に流し込んでいく。
ゴクリと上下するその喉仏にぼうっと見惚れてしまう。ああー、喉に吸い付きたい、あの唇に触れたい、そう思ってしまうのは恋人だから仕方ないと思う。
「何か期待されても困るんだけど」
見惚れてしまっていた俺に気付いたのか藤ヶ谷は一瞬眉を顰めたが、意地の悪い微笑を浮かべ吐き捨てた。会いに来てくれたくせして、軽口をたたく藤ヶ谷はまるで付き合いたての頃を思い出させる。
付き合いたての頃は、可愛かった。でも、カッコよく魅せたがっていた藤ヶ谷は割りと俺に酷い態度をとったりしていて天の邪鬼な面があった。
気分屋なところがあり、天然だし、予測不可能だった。でも、そんな藤ヶ谷と一緒にいれて凄く毎日が楽しかった。
「別に、期待してないよ。もう俺の気持ちを押し付けたりもしないから。ごめん、本当に。こっちの世界の事何も知らなくて」
「…知らないのは当たり前だろ。俺も教えてほしい。」
「え?」
「そっちの世界の俺と北山を。」
「……何で、」
「聞きたいんだ。馴れ初めとかも。それに、こっちの世界の北山の事が心配だから。何か分かるかもしれないだろ?」
稽古で疲れてるはずなのに、疲労困憊な姿を露ほども見せず、微笑みを浮かべた。今度は意地悪ではない、優しい微笑みだった。
ソファで並び、藤ヶ谷からの質問に対して全て答えていった。付き合うキッカケの話は一緒だったが、話してみるとところどころ違った。
やっぱり似ていても違う時空なのだと互いに再認識できた。ここまできたら、パラレルワールドを信じざるを得ない。
「こっちの世界の北山は、向こうの世界の俺に惚れ直したりしないかな。」
そして、ポツリと藤ヶ谷はそう呟いた。
その言葉に驚き、藤ヶ谷の顔を見れば、視線が交わった。
「……ねえ、北山。」
「ん?」
「戻らないでくれないかな。」
「………え?」
「……俺の事を愛してくれる北山がいいんだ。」
「……、」
藤ヶ谷の手が肩に回された。
なんだろう、と藤ヶ谷を見上げた直後、端正な顔が近づいてきて唇を塞がれる。
「……っっー!、」
「本当は、ずっとこうしたかった。」
何が起きたのか瞬時に理解は出来なくても、いつもの感触に胸は自然と熱くなった。
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まいまい(プロフ) - 無事に還ってこれましたね…でも別れている世界線の2人がまだ結ばれてない!!どうかどうかそっちの2人とYさんのこともよろしくお願いします!! (2021年6月9日 11時) (レス) id: d8ffbdef31 (このIDを非表示/違反報告)
ももは(プロフ) - 1632さん» 1632さんっ!いつもありがとうございます!もうすぐ他の長編が完結するので、こちらも執筆始めます…!長らく更新せず、遅くなってしまい申し訳ございません(;▽;)本当にいつもありがとうございます!感謝でいっぱいです! (2019年10月6日 11時) (レス) id: db5af09c34 (このIDを非表示/違反報告)
1632(プロフ) - こんにちは、北山くん戻れてよかったです!もうひとつの世界の北山くんも幸せになれたかすごく気になります(><)続き楽しみにしております! (2019年10月3日 21時) (レス) id: a09880b79d (このIDを非表示/違反報告)
ももは(プロフ) - 魚さん» 魚さまっー!わわー!今作もご覧頂き本当にありがとうございます…!嬉しすぎます(;▽;)いつもありがとうございます!はい!飛び蹴りくらっちゃう恋人のFさん、書いてて楽しかったです!更新またしたいと思いますー!違う北山くん目線、少し不安ですが〜!書きます☆ (2019年9月4日 21時) (レス) id: db5af09c34 (このIDを非表示/違反報告)
魚(プロフ) - 飛び蹴りを食らっちゃう藤ヶ谷さん可愛くて思わず笑ってしまいました!笑 元の世界の北山くんに出会えて何より嬉しいですよね〜(*^^*)! お仕事大変そうですが、お体大切にしてくださいね。゚(゚^ω^゚)゚。!更新また楽しみにしてます〜! (2019年9月2日 1時) (レス) id: cc0d16b1ad (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ももは | 作成日時:2019年8月15日 22時