囲われたミツと花【前編】

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「ミツは、可愛いね。汚れを知らない子どもみたいだ」



久しぶりに出会った外の世界の人が玉ちゃんで良かった。テンパっていた俺を救ってくれた。
あんこの生命も。守ってくれた。
あんこは、さっきまで喉を辛そうに咳き込んでいたのが嘘みたいに元気だ。



「また、あんこちゃんの容態も心配だし、3日後に来れるかな？」
「やっぱり、まだあんこに心配があるんですか？」
「んー？いや、あんこちゃんの容態が悪くなるのは限りなく0に近い。安心していいよ」
「…良かった、なら…俺の方で経過観察でもいいですか？」



これ以上、外に出るのは怖い。
今回は玉ちゃんが優しくて、救われたけど
まだまだ攻撃してくる人だっている筈だ。
太輔が言っていた。
善があれば、悪もあると。
俺を外に出さないのは、俺を守るためだと。
だから、部屋でのんびりしていた方が安心だった。



「んー。ダメ」
「へ？」
「分かんないかな？俺がまたミツに逢いたいんだ。そして、あんこちゃんもこの子達に逢いたい筈だよ？」



玉ちゃんの落とした視線の先には、楽しそうに戯れ、追いかけっこをしてるあんこの姿があった。



…確かに、
俺と二人で居る時とは、テンションが明らかに違う。



「あんこ…」



ちょっと落ち込む。



「そうですね、あんこはまたこの子達と遊びたいですよね、わかりました」



外に出るという事、
そのリハビリが自分にも必要だと思った。
同い年の彼が立派に生命を救ってるのに、片や俺は外の世界と断絶して、自分の世界で生きてる…



これをキッカケに外に出れば、太輔だって安心するだろうし、世話をする手間も減るだろう。




「三日後、伺います」
「んー。また休診時間においで？あー、それとも、LINEのIDとか交換しない？」
「…LINEですか？」



よくニュース番組で見ていたもの。スマートフォンと言われてるものに入ってるメール機能のアプリらしい。



「ごめんなさい。スマートフォン持ってなくて」
「ああ、それも家に忘れてきちゃったんだ？」
「…はい」



本当の事も言えず勘違いをした玉ちゃんの言葉に、躊躇いながらも相槌をうった。



ごめんなさい、と心で唱えながら。



「はい、じゃあこれ」
「…？」



掛けてあった白衣のポケットから取り出したボールペンで近くにあったメモ用紙に、何かを走り書きをすると、目の前に差し出された。



「俺のIDだよ。また連絡して？」



それを受け取った時、止まっていた時間が動き出した様な気がした。

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