囲われたミツと花【前編】

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それから、玉ちゃんは色んな事を聞かせてくれた。
珈琲を淹れてくれて、自宅だという二階に招いてくれた。
ここは、お父さんが開業してる動物病院で、他の病院での研修を経て玉ちゃんも今はここで働いてるということだった。
二階と三階は自宅で、三階には玉ちゃんの部屋があるらしい。
二階スペースにはスタッフの人の休憩室もあるらしく、看護師さん達はそこで休憩中だという。


その他の家族は、出掛けてるらしい。


リビングルームに通され、高そうなソファに座ると身構えてしまう。
でも、何匹もわんちゃんがいて、不安よりワクワクさが勝ってしまってる自分がいた。



あんこも嬉しそうでうずうずしてる。


「わんっ！」
「わんっ！」



トイプードルが、あんこを誘うように呼ぶとあんこも嬉しそうに吠え返した。
毛並みが良さそうなミニチュアダックスも混じりワイワイと戯れている。


それにしても、さすが動物病院…と唸ってしまうほどの数に、戯れてる子たちを見てるだけで心が踊った。



その光景をのほほんと見ながら珈琲を啜る。



「ミツはさ、ブラックじゃなくて、ミルクとか入ってる方が似合いそうなのに。ブラックなんだね？」
「うん。恋人が飲む珈琲が甘いから、その反動かな？」
「ふふ、可愛い恋人なんだろうね」



ふと、斜め前にある独立した一人掛け用のソファに座って玉ちゃんはそんな事を言った。
何となく恋人が男だという事は言えずにいた。
自分が引きこもりなのも言えなかった。



自分自身が引きこもりが恥ずかしいとか、そういう風に思ってる訳じゃない。でも社会通念上、やはり許されるものではなく色眼鏡で見られる事は、さすがに分かっていた。
だから、言い出せずにいた。



玉ちゃんは俺の事を高校生だと思っていたらしく、実年齢を知り驚いていた。それは俺も同じ。
玉ちゃんと同じ年齢だったのだ。



ここで生まれ育ったという玉ちゃんとは違い、俺は太輔に連れられ、引越してきたから同郷ではない。
だから、玉ちゃんも俺も互いの事を知らず初対面だった。



「…可愛いというか、頼ってばかりで申し訳なく思っています」
「そうなの？ま、ミツみたいな可愛い子には頼られたら嬉しいんだろうね」



漆黒な液体が空になりかけた頃、あんこが足元に擦り寄ってきた。
それを追いかけて、ミニチュアダックスが擦り寄ってくれた。



「可愛い！」


どうやら、あんこはこの子達と戯れる事が楽しいようだった。
そんな俺らを見て玉ちゃんは笑った。

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