囲われたミツと花【前編】

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「うそー！絶対未成年でしょ！」
「いーえ！正真正銘25ですー！何なら今年26です！」



不思議だ。
初めて会った人なのに、
男性なのに、ちっとも怖くない。



それは、あんこを助けてくれたからか、男らしいというよりは、中性的な可愛さを含んでるからかは分からない。でも、男なのに過去に俺を虐めた奴と重なる事はなかった。



傷はいつかは癒える。
外に出ていなかった俺はそれに気づかなかっただけで、傷はもしかして癒えてるのかもしれない。



無理矢理出ようとして、過呼吸を起こした10年前とは違って.......



「そっか。じゃあ未成年じゃないんだね」



改めてそう呟いた獣医さんは、顎に手をあて何かを考え込むようなポーズをする。




「はい。あと、お代ですが…今手元にお金がなくて」
「ん？ああ、急いでたもんね」
「はい…」



確かに財布を忘れてドラ猫を追いかけていたぐらい、急いでいた。体内でカレンダーを作るために毎週見てるアニメのオープニングを思い出す。



「いーよ。お代は。」
「え！でも、そんな…！」



その言葉に疑問を抱く。
太輔が教えてくれていた外の世界と違うことに。
見ず知らずのあんこを助けてくれて、お代までいいだなんて…！もっと悪が溢れていると思っていた外の世界は、どこか温かかった。



「ほっぺにチューしてくれたら、チャラにしてあげるよ」
「…え！そんなんでいいんですか？」



獣医さんが、自分の右頬にふにっと指をあてると指先が食い込み丸く窪んだ。
散々世話になっておいて今更だけど、太輔にお金を払って貰うのは頼みづらかったから、ほっぺにチューで済むならそれがいい。



今の時代、そう言った支払い方法もあるんだな。



「…してくれるの？」
「はい！これがお代になるのであれば！」



獣医さんは、どことなくビックリしてるように目を丸く見開いた気がしたけど、構わず腰を曲げて、椅子に座っていた獣医さんの白い頬に唇をふにっと押し付けた。



鼻腔に微かに掠る消毒の香りに、なぜか胸がきゅんと疼いた。



柔らかく白いその頬から、唇をゆっくり離すと、両眼で俺を見つめる漆黒な瞳がそこにはあった。



「俺の名前は、玉森 裕太だから」



額をくっつけられ、綺麗なお顔が目の前にある。
そして、告げられた獣医さんの名前。
この病院の名前と同じだ。



「北山 宏光です」



10年以上も口にしてなかった自らのフルネーム。
自己紹介をすると、「…はちみつみたいだね。」と笑われた。

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