囲われたミツと花【前編】

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殴ってきた男は、玉ちゃんに似ていた。
でも、玉ちゃんは怖くない。


玉ちゃんが俺のために選んでくれたシャツにカーディガン。首元が隠れるようにストールという布まで準備してくれていた。



玉ちゃんのセンスの良さが際立つ。
こんなに色んな人が居るのに、玉ちゃんは一際目立ちキラキラ輝いていて、視線を集めていた。



そんな玉ちゃんの隣に立って、エスコートして貰ってるなんてどんだけ贅沢なんだろう。
展望台から、色んな建物を教えてくれた。
日本で一番高いツリー。
テレビで完成記念を祝ってるのを見た。
出来上がる前に引きこもってたから、生で見るのは勿論初めてだった。



ガラス越しだけど、遠くまで見える。
しっかりと。



お土産の売店もある。
局を代表するキャラクター商品がたくさん並んでいた。



「ミツ？」
「んー？」
「楽しい？」
「うん！」
「あれ、あの人集りなんだろ？」
「…本当だ？」
「行ってみようか」



地上に降りると近くに大きな広場があって、
そこでイベントをやっていたのが、人集りがあった。展望台からも見えた集まりだった。
よく見えなかったけど、近づけば、歌声が聞こえてくる。



「この曲知ってる！」



テレビでよく聴いていた。
少し前にやってたドラマの主題歌か何かだ。



「あ、大倉くんだ」



外はすごい。
こんなにも輝いて、楽しさが転がってるなんて。



楽しそうな歌声に、歓声が聞こえる。
サプライズで行われた何かのイベントらしく、そこに偶然居合わせた人たちもゾロゾロ寄っては騒いでる。


「玉ちゃん！俺らも手振ってもらおうよ！」
「え、やだ。恥ずかしい」
「勿体無いじゃん！こんな偶然ってよくあるの？」
「いや、ない」
「じゃあ、余計に！おーい！大倉くーん！」



女子に埋もれても野郎の声は低いから、目立つ。
それが幸いして、大倉くんは笑いながら手を振り返してくれた。



…やば。
カッコイイー！


同性でも思うカッコ良さに、思わず倒れそうになると、玉ちゃんが笑いながら支えてくれた。



「ミーハーめ」



呆れたように笑っても、受け入れてくれる。
その支えてくれた胸に寄り掛かりたくなる衝動が身体を駆け抜けるのを、グッと堪えて体勢を戻した。



空に響くすべてのメロディーは、
耳だけじゃなく、目に心に残るのは何故だろう。メロディーは、目に見えない筈のものなのに。



この時のメロディーはずっと忘れない、そんな気がした。

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