囲われたミツと花【前編】

4 K ページ4

「あんこー。お前は外を普段散歩してるのか？」
「わんっ！」
「外は怖いのに、エラいなあ」



高一の時、集団から虐めにあい、俺は外に出るのが怖くなった。そこから、ずっと引きこもりだ。
母ちゃんは、外に出るよう何度も根気よく手伝ってくれたけど、怖くてダメだった。
他人の視線が怖かった。いつもどこでも、自分の事を他人が見ていて笑っているのではないかと、恐怖に押し潰された。
ただの話し声も、自分の事を薄ら笑い陰口を叩いてるのではないかと、身体が痙攣を起こし、過呼吸になった。
それから、外には出ていない。



正確には、このルーフバルコニーには出ているのだが。
まるで、温室育ちのお嬢様かと自虐したくなる程、太輔に迷惑をかけている。
でも、太輔はそれでいいと言う。



外に出なくていいと。
何もしなくてもいいと。


この部屋で、俺を待って居てくれないかと。
それが宏光の仕事だと、仕事を与えてくれた。



社会復帰への恐怖から、幼馴染である太輔に甘えるだけの生活をはじめて10年が経っていた。
初めは、隣同士だったウチに通ってくれて、太輔が高校を卒業し、大学へと進学すると一緒に住むマンションがあると、呼ばれそのまま住まわせてくれて、世話をしてくれている。
そんな太輔は、いつの間にか幼馴染から恋人になっていた。


迷惑ばかりかけてと謝罪しても、全然と笑い飛ばしてくれる。



「わんっ！」


ゴメンな。
外におまえだって行きたいよな。
太輔が帰って来た時、散歩は行ってるけど、きっと昼間の散歩だってしたいだろう。犬の気持ちは分からないけど、何となくバルコニーから下を覗こうとしてるあんこを見てると、出たいと背中が語っていた。


あんこを預かって一週間経った時、ハプニングが発生した。
目を離した隙にあんこがごみ箱の中身を散らかしていた。


それまではよくある事だった。「こら」と叱ればく〜んと分かってるのか分かってないのか、うるうるした瞳で見上げてくる仕草で終わる筈だった。


だけど、今日は何か変なモノを詰まらせていたのか、喉がぐぅぐう鳴っている。
平気そうに、湿った鼻先を足にくっつけてくるが、鼻をひくひく鳴らし、喉も鈍い音がして、何かを吐き出したそうだった。



「あんこ！」



急いで、太輔に電話をかけたが、やはり仕事中で出なかった。出れる時は極力出てくれるから、今はどうしても出れないタイミングなんだろう。



「ぐー」


その鼻の音に焦ってしまう。

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