囲われたミツと花【前編】

11 K ページ11

珈琲の御礼をして、嫌がるあんこを何とか抱きかかえ、玉ちゃんの家を後にした。


寂しそうに「く〜ん」と鳴く、豆柴の瞳に勝てる者などいるだろうか、という程の愛おしさに「また来ような」と自然とあんこに言っていた。


言葉など分かる訳もないのに、嬉しそうにデコを胸元にグリグリと押し付けてくるあんこに絆されてしまう。



あんこのトラブルが、トラウマのあった外の世界へと連れ出してくれた。太輔に話したら喜ぶかな、とワクワクした。早く報告したくて。
外に出れたんだよって。
まだ怖いけど、少しづつ出て見ようと思うって。



「…あ、鍵ないや」


マンションは確かオートロックだった。
外に出ない俺は太輔から鍵を預かっていなかった。今まで一度も出た事がないから気づかなかったけど、外に出てしまえば入る事も出来ない。
合鍵を貰えるか、聞いてみよう。



太輔が帰って来るまでどうしよう、と角を曲がりマンションの入口が見えてくるのと同時に前方から声が聞こえてきた。



「宏光…！」



顔を上げれば、慌てた太輔が立っていて、こっちに走ってきた。
あれ？仕事は？



「どこ行ってたんだ！電話も出ねえし！」



両肩を強く掴まれ、軽く揺すられた後、ぎゅっと包み込むように抱きしめられた。
太輔の甘い香りが鼻腔を擽る。消毒液とは違う、いつも漂う柑橘系の香りだった。



「…、電話出れなくて、ごめんな、無事で良かった」



…あ。
きっと駆けつけてくれたんだ。
家電から太輔のケータイに掛けたのに、太輔が折り返したら俺が出なかったから。心配をかけてしまったんだ。




「外に出るなんて…！危ないだろ？！」



ぎゅうぎゅう抱きしめてくるから、



「くーん」


俺らの間で押し潰されてしまったあんこが苦しそうに唸る。
それに気付いたのか、太輔が離してくれた。



「あんこも居たのか」



やっと太輔の視界に入ったらしいあんこは、太輔に抱っこされたいらしく太輔を見るなりバタバタ藻掻く。



「ごめん。あんこが喉に物を詰まらせて。テンパってさ、何とか助けて貰ってもう安心だから」



「詳しく聞かせて」と言う太輔と一緒に部屋へと戻った後、先程の出来事を話せば、段々と太輔の顔色が曇っていった気がした。
あんこに辛い思いをさせた俺を責めてるんだと思った。




「お代は良いって言ってくれてさ」



さすがに気が引けて、チューの事は言わなかった。
その話が終わると、すぐ抱かれてしまって、夕方には腰が立たなくなった。

12 F→←10 K

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す