囲われたミツと花【前編】

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その翌日─


「んー、そうそう。上手じゃん」
「にんじんと、ピーマンと玉ねぎを入れるんだー？」
「ソースは甘辛の醤油、砂糖、みりん、酒かな」


二階のキッチンで、透明な大きなボウルに豚のひき肉を入れて、ビニールの手袋をして捏ねる。


細かく切った野菜もボウルに入れると、混ざり合っていく。
玉ちゃんが、恋人に作ってあげれば、と料理を教えてくれた。今は、特製レシピを聞きながら一緒に作っているところだった。
まるで中学の時にやった調理実習みたいに、わくわくした。



「レンジの使い方わかる？」
「温めるなら」
「ひき肉、ちゃんと冷蔵庫に移してきた？」
「うん。」
「それでも、解凍できてなかったら、レンジのこの機能を使うんだよ」



自宅にある食材を確認してきて、と言われ今朝確認した。それを伝えると、じゃあ「ハンバーグを作ろう」と玉ちゃんは提案してくれた。



ひとつずつ、太輔にしてあげられる事が増えていくのが、嬉しかった。
そして、一歩ずつ自分自身がヒトに近付いてる気がして嬉しかった。



「本当は、30分ぐらい味を染み込ませた方がいいんだけど。今日は時間ないから、もう焼いちゃおっか」



油を少量引いたフライパンを熱すると、ふたりで形を作ったハンバーグを乗せていく。
中火で、蓋をするとジュウジュウと音が弾ける。



「きっと恋人も喜ぶよ。仕事から帰ってきて料理があると嬉しいもんだよ。」
「玉ちゃんも、ご飯が出来てると嬉しい？」
「もちろん。母が作ってくれてるよ」
「そっか」



一緒に住んでるもんね。
…母ちゃん元気かな。何年も会ってない事に急に寂しさを覚えた。



引きこもりになってから、連絡手段と言えば、自宅の電話から母ちゃんのケータイにかけて、体調のこととかを聞くだけになっていた。
それでも、母ちゃんは「元気そうな声でよかった」と優しい声でいつも包み込んでくれていた。



「ミツ？」
「ん？」



母ちゃんを思い出して、俯いてしまっていた俺を覗き込む優しい瞳。まるで慈愛に満ちたビー玉のようなそれに、胸が疼き、苦しくなる。



「そろそろ焼けてるかも。裏返そうか」



そして、頭を優しくポンッとしてくれた。
フライ返しを渡されて、蓋をあけると、イイ感じに色目がついたのが分かるハンバーグに、胸は踊った。俺の心臓は、今までの動きを取り戻すかのように、最近活発だった。



上手く裏返す事ができた、ただそれだけなのに嬉しくなって、はしゃぐ俺を玉ちゃんは笑ってくれた。

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