今夜君が欲しい【中編】

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『玉森に連絡してください。二人は恐らく、別れたと思います。何も知らない振りをして。すぐに、付け入ってください』



パソコンのメールアドレスから、スマホで宮田に送信した。
先手必勝だ。
世の中、タイミング以上に大切なものはない。
大恋愛を学生時代にしたって、たいして好きでもない人と結婚適齢期だという理由から結婚する奴も居るように。



傷つき、悲しむ人ほど簡単な奴はいない。



『連絡してみます』


すぐに、返ってきたメール。
念の為、そのメールアドレスはログアウトしておいた。



寝静まってる部長の腹筋に、リュックから取り出したポストイットを貼り付けた。



『さよなら。ありがとう』



何でもないただの黒のボールペンで書きなぐって。
粘着が弱いのりの部分を部長の腹筋に。



音を立てぬように、その鉄のように重いドアを開けた。高級そうな絨毯の上、革靴の音は吸い込まれる。



閉めるときに、終わりを告げるように『カチャリ』と小さな音が響いた。
最後に隙間から見えた部長の寝顔は、幸せそうで不覚にも可愛く思えてしまった。



藤ヶ谷と玉森が別れれば、全て終わる。
俺はバイトを辞めて、本業に勤しむだけだ。




「北山…っ」



ホテルを出れば、俺の居場所を探していたという藤ヶ谷が立っていた。この寒い春の夜風の中。
凍えそうになる指先を丸めて。
泣きそうな顔なのに、怒ってる声。



藤ヶ谷は分からない。
想定内なのか想定外なのか。
無知な生物だった。



「アンタ、何してんだよ」
「北山が好きだ。そしたら、帰る場所なくなっちゃった」
「……それって、俺を囲う準備出来てねえじゃん」
「…だね、ごめん」


帰る場所がない、それは…
玉森のいる部屋には戻れないって言うことだろう。



「…でも北山が欲しい。北山のナカに入りたい」
「…それって、ただやりたいだけみてえじゃん」



露骨な藤ヶ谷の言葉に思わず、笑ってしまう。



「やりたいよ。北山の事、誰にも…もう、触れさせたくない」



オアズケが効いたのか、いつもより素直な藤ヶ谷。
真夜中の空の下で。冷たい藤ヶ谷の手に腕を引かれ、冷えた体温の藤ヶ谷にぎゅっと抱きしめられた。



「しゃあねーな。囲ってやるわ。俺んち来いよ」



また、引越ししなきゃな。
あのマンション気に入ってたのに。



抱きしめられた藤ヶ谷の袖をぎゅっと握りしめて、背伸びをする。



触れた藤ヶ谷の唇は、熱く…
外なのに、藤ヶ谷は唇を割り舌を差し込んできた。

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