今夜君が欲しい【前編】

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その夜、即答では決断できなくて、そのままコースターをカバンの内ポケットへと入れ、帰宅したのは数日前。



「ガヤ、ここの原稿間違えてたよ。校閲係の人も見落としてたみたいだけど」
「えっ、ごめん。どうしよう」
「だいじょーぶ。寸前で気付いて、修正しといたから」
「ありがとう、タマ」



先輩のガヤさんは仕事は出来るけど、稀に抜けてることがある。それを上手に玉さんがカバーするようになってから、二人の距離は縮まり、ガヤさんが玉さんに惚れ、二人は付き合うようになった。



でも、好きになったのはガヤさんからでなく、玉さんが先だったのを知っている。



自分は、玉さんから相談をされていたから。



外見は格好良く、クールに振舞ってるけど、内面は、少し抜けていて天然で可愛い先輩がいると。



そして、その先輩を好きになってしまったと。


相談をされてしまえば、応援をするしかなくなる。
本当は嫌だった。
俺は、玉さんが好きだから、応援は出来ない、相談には乗れない、って言いたかった。



でも、言えるはずもなかった。
初めて相談をされた時に告げられなかった事が尾を引き、自分はずっと辛かった。




二人の距離が近づいてる事に気付いていながら、指を咥え見てることしか出来なかったことが



今の自分を苦しめていた。



「あー、これで今日も帰れなかったら…4日もここで寝泊まりすることになるー。わあー帰りたーいっ」
「本当だよね。羽伸ばしたい…温泉でも行きたいわー」
「それ、いーね♡ガヤとずっと布団の上で1日中過ごしたいわ。絶対生き返る！」
「…変なこと言わずに、手を進めろ。職場では、藤ヶ谷さんと呼べって言ってるだろ」
「いーじゃん。二人っきりだし」



番組の構成を編成局に届けに行くのを買って出たため、編成室へと向かった。
担当は玉さんだったから、買って出た。



でも、玉さんはデスクにいなくて、
そこにはスリープ状態のディスプレイと、何か書いてある紙の上に鉛筆が転がっているだけだった。



近くの席の方に尋ねると、
ミーティングルームで打ち合わせ中、ということだった。社内のものだから入ってもいいらしい。



小さな個室のミーティングルームは硝子張りになっているけど様々な番組のポスターで隠されているから中は見えない。



ドアの隙間を少し開ければ、声は聞こえる。
二人の幸せそうな会話が漏れてくる。

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