今夜君が欲しい【前編】

47 K ページ47

昼からは玉森は取材に出たりとかで、部署にいる事が少なかった。



藤ヶ谷はさっきデスクに呼び出されていたから、きっと誤解は解けたのだろう。


藤ヶ谷の評価を下げたままにしとくのは、気持ち悪かったから、これで良かったんだと思った。



藤ヶ谷にも嫉妬をして欲しいし、これで俺があのオッサンに抱かれる理由を正当化できる気がした。



上手くいくだろうか
俺がオッサンに抱かれる事で、藤ヶ谷は嫉妬なんてするのだろうか。



この仕事をしていて初めて不安になった。



今まで全て思い通りになってきたし、今回だって順調だ。
なのに、何で…心配なんだろう。
晴れないんだろう。
わかんねえ。


でも、ま。
目障りな2人が居ないから、入力作業は捗った。



依頼主との約束の時間まで、あと少し。
左手首を確認し、集中しすぎて時間が過ぎないように気をつける。



早く終わらせたい。




依頼主は玉森と上手くやってくれるのだろうか。
あの人押し弱そうだもんな。
いい人の殻を破らないと、あの玉森はきっとあの人に振り向く事はない。



宮田に渡した錠剤、きちんと飲ませる事が出来るだろうか。ヘマして、自分が飲んだりしねえだろうか。そんなふうに思ってしまう程、今回の依頼主は闇を抱えてる癖に、いいひとだった。




依頼主は大金を俺に払う。
だから横柄の人も居た。
宮田はそんな奴らとは真逆で
どんなに闇を抱えてても心底ではいい奴だった。




アイツは、玉森を無理矢理襲ったりはしない。
だから今まできっと苦労してきたんだ。



絶対幸せにしてやりたい。
依頼主の利益は絶対だ。



キリが良いところまで入力をして、左手首を確認すると丁度良い時間だった。



藤ヶ谷からの視線をさっきから背中越しに感じていた。
それに気付かぬふりをして、立ち上り喫煙所へと向かう。



壁に凭れかかり、顔を上げて天井を仰いだ。
そっと息を吐く。



頭に浮かぶ、藤ヶ谷と玉森が二人で笑い合ってる光景を振り払った。



藤ヶ谷の絆創膏が貼ってある首筋も振り払った。




"関係ない北山を侮辱し叱咤なさった事を詫びて頂けませんか？"
そう言って人の目も自分の立場も気にせず、そうデスクに詰め寄った藤ヶ谷の姿も振り払った。



"気付いてやれなくて、ごめん"
そう言って、そっちが泣きそうになってる程…必死だった藤ヶ谷の姿も振り払った。



依頼主のために、標的(ターゲット)とその恋人を別れさせる、それ以上でも以下でもないのだから。

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