今夜君が欲しい【前編】

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俺のミスを全く関係がない藤ヶ谷がやった事にして謝った。教育係だとしても、この仕事は俺一人が任されていた。


だから、ミスだって仕掛けたんだ。



なのに、藤ヶ谷は
周りから向けられる白い目に耐えながらも、ホントに自分がしたかのように、俺など振り返らず自分の席へとついてパソコンに向かった。



おまえのパソコンにはそのデータ入ってねえだろ？
どうする気だよ。



想定外は俺の思考を止めさせる。



動けなかった。



その席に座る彼の真剣な横顔に目が奪われていた。
筋の通った高い鼻が栄える横顔に。



数秒奪われ、ハッとする。
すぐに藤ヶ谷の元へと走った。



「藤ヶ谷っ！おまえは関係ねえだろ！俺のミスだ。俺が」
「いーから。叱られるのは慣れてる。早くデータ寄越せ」
「……、」
「俺もやるから。ミスは誰にでもある」



周りには聞こえない声で藤ヶ谷が諭す。
困り果てた表情ではなく、凛々しいそれに、不覚にも心が震えたのが分かった。



完成データはある、のに。
それを言い出せなかった。



「北山は月〜水のデータを確認して。俺が木〜日を見るから」



データファイルが入ってる社内専用のUSBを藤ヶ谷に渡すと、藤ヶ谷は悪戯に笑った。
背中合わせのデスクで。



それは藤ヶ谷と競った初日の様な光景だった。



俺は、後ろでカタカタと静かな音を立てキーボードを叩いてる藤ヶ谷を背中に感じながら、既にあるデータを使わず、月〜水のデータを原稿と照らし合わせ確認し訂正にかかった。



滑る指先は、きっと汗だ。


余り焦ることのない自分が焦っている事を自覚する。



自分の地位は誰だって大切だ。
叱られるなど誰だってされたくない。
知ってる人がいる前なら尚更だ。


それだけでなく、他者からの評価や人事考課にだって影響するかもしれない。


自分の尻拭いならまだしも他人の尻拭い。


てめえの尻すら拭わねぇ奴がいるこの御時世に。



どこまで真面目なんだよ。


いいひとは、痛い目に合うぞ。


騙されるぞ…


俺みたいな、奴に。



こんな標的(ターゲット)は初めてだった。



自分も真剣に、ディスプレイと原稿に目をやった。




＊



「終わったー！デスクに渡してお詫びの連絡いれとくから」




藤ヶ谷は二人のデータを確認しデスクに頭を下げた後、先方にも詫びの電話を入れた。




それだけでなく、上司であるデスクに「関係ない北山を侮辱し叱咤なさった事を詫びて頂けませんか？」と詰め寄ったのだ。

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