恋は何歳まで出来ますか？

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仕事を終えて、マネージャーさんに送ってもらうのを断り、タクシーで待ち合わせ場所まで向かう。


一応、伊達眼鏡のマスクをして。
ちょっと早く来てしまった。
約束の20時までは、あと30分ある。


そんな時、電話がかかってきた。
テレビ電話じゃない、通話のみの電話。
最近では主流じゃないから、公共の場とか仕事の時しか使わないもの。


最近登録した『宮田』という名が映し出されてる。



タップすると、
つけていたイヤホンに飛んで声が聞こえてくる。


「宮田…？」
『ごめん、裕太くん、予定入っちゃって。また今度でもいい？』
「予定？」



外はガヤガヤしているけど、最近の通話機能は性能が良くて宮田の声を鮮明に拾ってくれていた。
耳に直に入ってくる。雑音は一切入らない。


それは残酷な言葉。
予定とは、なんだろう。
仕事が長引いてる？
震えそうな手をなんとか握りしめ抑えると平気なふりをする。



『ごめん、ちょっと外せなくて』


予定を具体的に言ってほしいと言う資格もない。



「そっか、なら、仕方ないね」


電話で良かったと思う。
テレビ通話じゃなくて、良かった。
笑えないから。



『…ちょっと、待てって、あ、ごめんね、じゃあ、また』


あいつ…


宮田はそう言って、電話を切った。
最後に女性の声が宮田の名前を呼んでいて。その声は多分聞いたことがある。
記憶の片隅にある花さんの声のようだった。


切られた通話は、ツーツーツと無機質な音を奏でていた。



そしてその場に倒れ込みたくなるのを抑え…柱に背中を預けた。冷たさが服を通して、背中に届く。



楽しみにしていた約束は簡単に破られるものだった。


宮田なんて嫌いだ。
約束を簡単に破るやつなんて──…


嫌いだ。


電話を手に取り、かけた先は…


『もしもーし、裕太くんどうしたの』
「今からお邪魔してもいいですか」
『え、いーけど。健ちゃーん！裕太くん来るって』



画面に映るのは、二階堂さん。
そして、二階堂さんに呼ばれ返事をしてる健ちゃんだった。


母さんには言えない。


母さん以外の人にこんな気持ちを抱く日がくるなんて思わなかった。


母さんが一番好き。


なのに…


"母さんは二番目でいいんだよ？"


二番目なんかじゃない。


20も上の人なんか、どうでもいい。


母さん以外。



肌寒い風が、首から入ってくる。
肩を丸めて、足を前に進めた。


手には二階堂さんから送られた位置情報が表示されていた。


破る約束なんて、すんなよ。

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