第百十六話 ページ26
夢を見た
髪も服も真っ白な女性が海の奥底へ沈んでいく
ひどく寂しい夢
泡とは違う、透明な何かが海中を漂っている
涙だ
女性泣きながら、必死に口を動かして何かを告げようとしている
しかし声は音も無くすべて泡となる
ただひたすら暗闇に沈んでいく彼女の顔は、海水に歪んでいてわからない
でも
後悔を含んで涙を溢れさせる瞳は
どこか悲痛に満ちたその瞳は
「──────・・・・・」
私によく似て青かった
・
・
・
『…、…ん』
薄ぼんやりとした視界の中で黒い影が一つ、目に映った
その影は私へと手を伸ばしかけて、すぐに引っ込めた
顔は見えない
けれど
名残惜しそうに自身の手のひらを見つめているようだった
『…だ、れです…？』
渇いた喉から声を絞り出す
「…」
『んん』
雑に、でもどこか優しい手つきで私の頭を撫でた
乱雑だけれどなぜだがそれが心地良い
野良猫にでもなったような気分で、その手の優しさに縋るようにして再び眠りに落ちた
＊
「…」
電子音だけが鳴る病室で一人立つ
窓の外は不気味なほどに暗く、ただ青白い月が浮かんでいた
彼女の頭に置いていた手をするりと動かし、細い首まで持っていく
このまま手に力を込めれば、二度とその憎らしい青い瞳が開かれることはなくなる
そうすれば、この鬱陶しい感情に終止符を打てる
ただ力込めればいい
でも
たったそれだけの簡単なことができないのは
きっと
「…、…」
きっと、僕が彼女を好きだからだろう
たかが本に頬を緩ませて、幸福に満ちた顔でページを捲る彼女が
僕に揶揄われて頬を真っ赤にしながら怒っていた彼女が
泣きながら、それでも真っ直ぐな瞳で引き金を引く彼女が
死人相手に泣きじゃくる彼女が
そんなお人好しな彼女が
愛おしくてたまらないからだ
目の前で、馬鹿みたいな顔で眠る彼女の頭を乱雑に撫でつける
人の気も知らないで…本当にムカつく
「…最悪」
一人呟いたその言葉は誰にも届かないまま電子音に掻き消された
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るるぶ(プロフ) - まおさん» ご指摘ありがとうございます。気づくのが大変遅くなり申し訳ございませんm(._.)m (8月18日 23時) (
レス) id: 63f24df033 (このIDを非表示/違反報告)
まお - 百二十二話がないですよ (6月29日 17時) (レス) id: afad3f7130 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：るるぶ | 作成日時：2022年1月3日 0時
