＊ ページ13
大我は、真夏なのに分厚いカーディガンを羽織って、それでも涼しげな表情をしている。
冷たい手も、肌の白さも、それから同じ学年なのにわたしが大我のことを知らないことも。
いろいろと普通じゃないのは明らかだ。
そこには何か理由があるはずで、それが気にならないと言えば嘘になってしまうけれど、でも聞く必要は無いと思っている。
大我がわたしに何も聞かないならわたしも大我を知らなくていい。
大我が何も言わないうちは。
どうせすぐ、終わるつながりだ。
「ほら行こう」
大我がわたしの手を引く。
今度は立ち止まることなく、その冷たい手に引かれるまま足を進める。
少し癖のある黒髪が目線の少し上で揺れていた。
それを追いかけて、静かな廊下に二人分の足音を立てた。
一体何をしているんだろうと思った。
死 のうとしていたはずなのに、なんでこんなことになったんだろう。
頭ではそう思いながらも足は止めなかった。
なんでなのかはまだ自分でもわからない。
本当ならもう死 んでいるはずのわたしのほんのちょっとのおまけの人生が、少しずつ過ぎていく。
『ねえ、どこに行くの』
目の前のベージュのカーディガンに向かって声をかけると、その答えは間を置かずに返ってきた。
「おまえの名前と同じところだ」
『わたしの名前？』
ということはつまり、もしかして。
大我が、楽しそうに笑いながら振り返る。
「海に行くんだ」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 114人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：cielo | 作成日時：2023年10月6日 2時
