38 嫌なことはワインに溶かして ページ40
・
夕食を終えてから暫く経ち、時計の針は頂点に達そうとしていた
自室に流れ込む夜風に目を細め、そわそわした胸を撫で下ろした
というのも、そろそろイソップが迎えに来る時間であったからだ
お酒の飲めない私にはホットワインを作ってくれるという彼の厚意に甘えて了承したものの、2人っきりで娯楽の時間を過ごすのは今回が初めてだ
護衛という口実を含ませても、妙な緊張感を消すことができない
「そろそろくるよね…」
時計にちらっと目をやり椅子から重い腰を上げたと同時に、ノックの音が響いた
控えめでありながらもその音は私の胸を酷くうねらせた
「イソップさん…？」
「はい。…迎えにきました。」
彼の返答を待ってからドアを開けた
「では、行きましょうか。」
彼の言葉に頷き後ろ手にドアを閉めた
・
・
・
「どうぞ、…あまり綺麗ではありませんが。」
そう言って開かれたドアの向こうには、彼の繊細さを映したような部屋が広がっていた
「おじゃまします…」
イソップの方へ軽く頭を下げてから、恐る恐る彼の自室へと踏み込む
丁寧に整理された本棚や、机の上に並べられている何かの瓶に単色のカーテンにベッドシーツ…
『彼らしさ』は彼の部屋に来てしまったことを更に強調していく
「こちらに座ってください」
彼は中央に位置するテーブルへと私を案内し、椅子を引きエスコートしてくれた
「ホットワイン作るので、少し待ってもらってもいいですか？」
「私も何か手伝いますっ…！」
「いえ…すぐできますので座っていてください。落ち着かないとは思いますが…」
イソップはキッチンから此方へ顔を向け照れ臭そうに微笑んだ
・
・
「わぁ…すごいっ…！」
数分も経たずしてテーブルの上にひろげられた宝石のようなチーズたちと彩りの良いサラダや夜を溶かしそうな色をしたワイン
私の目の前にある厚めのマグカップからは心地の良い芳醇な湯気が立つ
「喜んで頂けて嬉しいです。
…では、いただきましょうか」
指先をほっとさせる暖かなマグカップを彼のグラスに近づけ、今夜の娯楽を誓うような…そんな気持ちでカランと音を鳴らす
彼は少し照れたようにはにかみ、グラスへと口をつけた
少し薄暗い部屋からゆったりと流れ込んだ月光は、グラスの縁を微かに輝かせる
彼の色素の薄い瞳と共鳴しているようだ
ゆったりと流れる時と反する様に、逃げる様に私の心はトクンと音を鳴らす
濃厚なワインの香りが私を酔わせたのだろうか
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1007人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「第五人格」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
あまね(プロフ) - めちゃくちゃ好きです😭 (4月27日 16時) (
レス) @page48 id: 2b125e9969 (このIDを非表示/違反報告)
ちび(プロフ) - 続きが気になります (1月8日 8時) (レス) @page45 id: 8dd546cbdc (このIDを非表示/違反報告)
おかさん(プロフ) - 今更ではありますが、更新、楽しみに待ってます… (2022年10月20日 5時) (レス) id: 48fcbe9d4c (このIDを非表示/違反報告)
めぐ(プロフ) - アリスさん» 作者さんでもないのに横からすいません。その文を見た時にドキッとしてしまいました...確かに私たちが楽しんで読み進めれば主人公はその分酷い目にあう。そんな発想はなかったのでまた違う面白さが見えてきました！ありがとうございます (2019年12月14日 0時) (レス) id: 31f2218efb (このIDを非表示/違反報告)
アリス - 初コメ失礼します。個人の感想ですが、何かこの作品を読んでいると犯人は私たち読者？と思いました。主人公は刺激を求めて、私たちはドキドキを求めるみたいな。この作品は私たちが楽しめば楽しむ分だけ主人公に色々な出来事が起こると思いました。変な文ですみません。 (2019年9月25日 2時) (レス) id: cf8111877c (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ぽむちゃん | 作成日時：2019年7月4日 19時
