十二月末※本誌匂わせ ページ36
伊黒様の口に巻かれた布に触れる。
「……なんだ? 加賀見」
「いいえ、なんでも……なんでもないんですけれど」
「……そうか」
「いいえ、なんでもなくありません」
伊黒様の、過去。……日記には書かないが、ひどく、悲惨な、その過去。俺は時々この人にどう接したらいいのかわからなくなる。俺のどんな称賛も、願いもその過去の前にはすべて拒否されてしまうのだ。他ならぬ、伊黒様の手に──心によって。
「どうして蜜璃様に思いを伝えてくださらないのですか」
「加賀見」
「……なんで幸せになろうとしてくださらないんですか」
「……加賀見」
「幸せになってくださいよ……七月の言葉はそのまま伊黒様に返しますよ……」
座った状態の伊黒様の袖をつかんだ。視界が歪む。喉の奥がぎゅうと締め付けられる。……あぁ、くっそ。
「……加賀見。お前は俺の過去を知っているだろう。その上でそんなことを言うのは、愚かだ」
「……愚かなんかじゃありません。愚かだって構いません。伊黒様。貴方は、……貴方が幸せになるのなら、俺は何べん地獄の業火に焼かれたって構わない。生まれなくても構わない」
「俺が構うからダメだ」
「……っ、優しすぎるんですよ貴方は!!」
涙がこぼれた。吠えた俺の頬に伊黒様が優しく手を添える。
「悪いのは鬼なのに。伊黒様は何も悪くないのに。どうして、どうしてですか。……どうして……」
「鬼がいなくても、俺の一族は強欲で醜いからだ」
「血なんて、貴方の価値には何も関わりませんよ。何も。俺が父ほど偉大な画家じゃないように」
「俺はああ行動したんだ。……屑だ、同じようにな」
「同じなわけあるものか!! 貴方は心が綺麗すぎる!!」
「加賀見」
伊黒様が俺の頬を手で包み込んだ。
「お前も、俺も。この件でお互いに譲る気はない。……不毛だ、やめよう。な? 友人として、頼むから」
俺はその真っ直ぐで、優しい、……願いの拒絶に、ただ泣くしかなかった。
*
本誌読んで若干解釈が変わったので細かいところ直しました。言われないとわからないくらいに細かいので読み返さなくても支障はありません。たぶん。
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紅葉蓮(プロフ) - ゆうさん» ありがとうございます!!あと少しで一旦完結の予定ですので、頑張ります! (2020年6月14日 19時) (レス) id: e2cb5510b9 (このIDを非表示/違反報告)
二嘉 - いいなコレ。気にいったぜ☆ (2020年6月3日 18時) (レス) id: 5a89568ca4 (このIDを非表示/違反報告)
ゆう(プロフ) - めちゃくちゃ面白かったです!続き読みたいです! (2020年4月27日 21時) (レス) id: 7f11035070 (このIDを非表示/違反報告)
ソーダ - うむ。面白い!よもやよもや! (2020年3月4日 8時) (レス) id: 4b674ab2ae (このIDを非表示/違反報告)
紅葉蓮(プロフ) - 紫呉さん» いやほんとそれですよね…! (2020年2月25日 10時) (レス) id: e2cb5510b9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:紅葉蓮 | 作成日時:2019年11月25日 11時