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ふと、池が見えて、少女はそこで、縁側の縁に腰をおろした。透き通った水だ、なんの汚れもない。泳ぐ鯉がくっきり見える。錦鯉だ。紅白のまだら模様が、陽の光に反射していた。彼女は、それを写真に収めてやろうか、とも思ったが、ポケットから出して、構えようとしたところで、諦めざるを得なくなった。横から、急に声がかかったからだった。
「あんた、誰」
ぽけっとした声だ。気の抜けた声、でも少ししゅわしゅわが残っているような感じ。弱炭酸の弱を、もう2つ増やしたくらい。少女は、スマホをジャケットのポケットにしまい直すと、声の方を向いた。
「須藤早希」
「名前はいいよ、何者? もしかして、噂の天女?」
興味がなさそうな、そんな調子で、声の主の少年は、尋ねた。
「天女?」ほんの少し間があって、「ああ、いや、……そう」
「何しに来たのさ」
「目的なんて持っていない。来ようと思ってきたわけじゃなくて……勝手に」
「勝手に? なんの目的もなく、どこかにいくことないじゃない」
「死んだら、多分、死んだら、ここへきてしまった」
「……おやまあ」
申し訳なさそうな、それか、妙なことをいう、目の前の少女をおちょくるためか、素っ頓狂に、少年はそう言った。
幼い顔だ、自分よりずっと歳下だろう。それか、時代のせいかもしれないけれど。少女――早希は、無表情なその少年の顔を見て、そう思った。手には、スコップのような、木製の道具が握られている。既に、寝巻きから、制服である忍び装束に着替えていた。色は紫。けばけばしい紫。これで、隠密行動ができるのだろうか。案外、夜の闇には溶け込みやすいのかもしれない。
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はしまき(プロフ) - ありがとうございます。移転先でもテクマクさんの小説楽しく拝見させて頂きます(^^) (2019年7月25日 9時) (レス) id: b90d5ba7ae (このIDを非表示/違反報告)
テクマク(プロフ) - はしまきさん» おんなじですよ〜急に申し訳ないです汗 (2019年7月25日 1時) (レス) id: a653a54844 (このIDを非表示/違反報告)
はしまき(プロフ) - こんにちは、いつもこちらの小説楽しく拝見させて頂いてます。移転とこことですが小説名は移転先でも同じでしょうか? (2019年7月25日 1時) (レス) id: b90d5ba7ae (このIDを非表示/違反報告)
東華@マスク教教祖(プロフ) - テクマクさん» こまめなお返事ありがとうございます! (2019年6月25日 6時) (レス) id: 7b392f353b (このIDを非表示/違反報告)
テクマク(プロフ) - 東華@マスク教教祖さん» ありがとうございます! エタらないよう頑張ります……! (2019年6月25日 4時) (レス) id: a653a54844 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:テクマク | 作成日時:2019年4月3日 2時