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朝。少女の意識にはもやがかかっていた。頭はぼうっとしていて、それから、なんだか、浮遊感。疎外感? いつもと違う空気、いつもと違う光、壁、天井。そういえば、車に轢かれたのだ、別の世界にきたのだ、というのを思い出した。
「クソッタレのベンツめ」
それから、彼女は小声で呪詛を吐く。これが今日の第一声。
別の世界に来てしまう、そんな妙ちきりんな話が夢なら、目覚めた瞬間、気づくものだ。だから、少女がいま、自分は寝ぼけているのだと考えても、それは自分に言い聞かせているだけだった。
布団をはいで、立ち上がる。伸びをする。
「今は何時だ」
頭をさすりながら辺りを見回し、スマホを探す。しばらく部屋の隅から隅をみて、そういえばジャケットのポケットに入れたのだと思い出した。壁際に乱雑に脱ぎ捨てたジャケットを片手で拾い上げ、ポケットからスマホを抜き取る。画面を点けて、時間を見る。5時半。まったく、中途半端な時間だ、と、少女は溜息をついた。世界が違うのだから、時刻も間違っている可能性がなきにしにあらずだったが、外の明るさ、空気の感じからすれば、外れていても遠からずだろうと、彼女は考える。
服装確認。
ジーンズ、シャツ。手にジャケット、外にスニーカーが置いてある。以上。
寝巻きに着替えるのを忘れていたのを思い出す。寝落ちではない。結論が出たのを覚えている。
「昼食の後に返事を聞こう、だったかな……」
だとしたら、随分時間が余っている。スマホで時間を潰す? 中に入ってる電子書籍は全部読んだし。ゲームは? 圏外。SNS……だから、圏外だって。回線がなければ、スマホというのはただの板だ。少女は、眉をひそめた。しかし、気になるのは、一向に充電が減らないことだ。ずっと100パーセント。
仕方がない。散歩でもしよう。朝食の時間になれば、昨日の美人さんが来るかもしれないけれど。でも、その朝食の時間だって、まだ先だろう。30分したら、一応戻ってこよう。そう思って、少女はジャケットを羽織る。スマホをポッケに戻して、チャックを閉める。愛車は元気だろうか、メンテナンスは誰がやるんだ、と穏やかな憂鬱を湛えながら、扉を開けた
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はしまき(プロフ) - ありがとうございます。移転先でもテクマクさんの小説楽しく拝見させて頂きます(^^) (2019年7月25日 9時) (レス) id: b90d5ba7ae (このIDを非表示/違反報告)
テクマク(プロフ) - はしまきさん» おんなじですよ〜急に申し訳ないです汗 (2019年7月25日 1時) (レス) id: a653a54844 (このIDを非表示/違反報告)
はしまき(プロフ) - こんにちは、いつもこちらの小説楽しく拝見させて頂いてます。移転とこことですが小説名は移転先でも同じでしょうか? (2019年7月25日 1時) (レス) id: b90d5ba7ae (このIDを非表示/違反報告)
東華@マスク教教祖(プロフ) - テクマクさん» こまめなお返事ありがとうございます! (2019年6月25日 6時) (レス) id: 7b392f353b (このIDを非表示/違反報告)
テクマク(プロフ) - 東華@マスク教教祖さん» ありがとうございます! エタらないよう頑張ります……! (2019年6月25日 4時) (レス) id: a653a54844 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:テクマク | 作成日時:2019年4月3日 2時